トタン屋根の雨漏りは放置すると建物だけでなく内部の家財にまで被害を広げてしまう、非常にやっかいな住宅トラブルだ。
年数の経過した建物だとつい対処を後回しにしてしまいがちだが、時間が経過するほどに修理費だけでなく損害を受けた金額も増大していくことだろう。
今回住宅のプロである一級建築士がお伝えするトタン屋根の雨漏り対策に目を通してもらうことで、DIYで早急に対処する方法はもちろん長期的に雨漏りを抑える方法、そして保険を利用してゼロ円で修理する方法などをご理解頂けるはずだ。
ぜひ出費を抑え大切な住まいを守るために役立てて欲しい。
雨漏りの恐ろしさ
雨漏りと言うと壁や天井にシミができるのをイメージされる方が多いと思うが、実はその被害は表面的なものだけでなく非常に深刻な部分にも広がっていく。
大切な建物の耐震性や耐久性を大きく損ない、家の中にある家財を台無しにする場合すらあるのだ。
しかも見た目だけの被害に思える内装のシミやカビは、住人の健康に被害を与える可能性もあり決して軽視できない。
ここでは雨漏りの代表的な被害を改めてご覧頂き、雨漏り被害の影響の大きさを認識してもらいたい。
建物の腐れや錆
建物の天井裏や壁の中などに雨水が浸入し溜まってしまうと、そこにある構造材が腐食を起こす。
木材なら腐れ、鉄骨ならサビを発生し、骨組みを蝕んで建物を支える力を奪ってしまうのだ。
これにより耐震性が失われて大地震の際に住む人の命が危険に晒され、また耐久性も無くなるため大切な住まいの寿命が短くなってしまう。
また湿気が内部に残ることでシロアリが発生することもあり、一度巣を作られてしまうと骨組みの劣化は一気に加速してしまう。
建物内部に雨水が入り込み濡れてしまうことは、住宅としての命を奪うことになりかねないと肝に銘じて欲しい。
家具や家電の破壊
天井や壁から雨水が溢れ出したその先に、家具や家電があれば大きな被害を受けるだろう。
家具が濡れればシミや変形が発生し、修理ができれば良いが解決できないことの方が多い。
買い替えるかみすぼらしい姿のまま使い続けるしか無く、見るたびに暗い気持ちになってしまうだろう。
また家電は濡れてしまうと家具以上に修理は難しく、買い替えとなれば大きな出費となってしまう。
さらに電気製品の水濡れは漏電を発生させ、漏電遮断器が作動することで別の部屋の電気製品の故障も引き起こす。
特にテレビ周りやパソコン関係のものはデリケートな上に金額も張るため、家計へのダメージも大きいだろう。
直接濡れる被害だけでなく家財にも被害が及べば、家の修理と同等かそれ以上に費用がかかることを忘れないで欲しい。
非常に厄介なカビやシミ
壁や天井にできるシミやカビなどは、単なる内装の汚れと考え放置してしまうと大きな2次被害を生むことになる。
特にカビは小さな子どもやアレルギーを持つ方に深刻な健康被害を生むことがあり、目に見える場所にあるものはまだ良いが、壁内や天井裏に発生していると気づかれないため原因不明の疾患の生む可能性さえあるのだ。
またシミなどは簡単に綺麗にできるとお考えの方もいるが、基本的にシミ抜きは難しく壁紙の貼り替えになることが圧倒的に多い。
しかも小さな部分での貼り替えは困難なため、ジョイントからジョイントの広い範囲での貼り替えになり、想像以上の額の修理費になってしまうだろう。
トタンの特徴
トタンとは鋼板に亜鉛のメッキを施したもので、古い住居や小屋、物置など様々な屋根に非常に多く用いられてきたが、近年の新しい建物で使われることは滅多になくなってきてしまった。
ここではその理由つまり素材の特徴を知って頂き、雨漏り修理や今後のメンテンナンスの参考にして頂きたい。
トタンのメリットは施工性と価格
トタンにはまず軽量で加工がしやすく運搬も楽なことに加え、狭小地など作業スペースが取れない敷地でも容易に屋根施工ができるなど、いわゆる高い施工性の良さを持っている。
さらに軽量ゆえに地震時の建物の揺れが本瓦などに比べ小さく、内部の家具の倒壊被害が少ないという利点もある。
そのため明治時代後期から広く普及し値段も手頃で、現代でもDIYなどでは非常に重宝される定番材料となっている。
デメリットはサビへの弱さ
施工性は高いトタンだがサビに非常に弱いという弱点があり、表面のメッキに傷が付けば瞬く間にサビが発生し広がるスピードも非常に早い。
しかも鋼板材の永遠の課題である施工時の傷や施工後の落下物による傷、釘穴断面など様々な原因要素も多く持っている。
特に昭和の高度成長期の需要の波に乗って広まったものなら、相当の年数が経っていることとなりサビによる雨漏りの発生は当然と言えよう。
素材自体の耐用年数も、現在同じ用途に頻繁に使われるガルバリウム鋼板の30年に対しおよそ10〜15年と半分以下のため、長期利用を考える建物だとメンテンナンスや葺き替えなどの費用がかかってしまう。
このため初期費用は安くとも残念ながらコストパフォーマンが高い材料とは言えず、今後は短期間の利用を前提とした建物に用いるのがベターだと言える。
サビ以外の雨漏り原因
トタンの雨漏り原因はサビが最も多いがもちろんそれだけではない。
その他の代表的な原因には地震や強風などによるジョイントの開きや、釘穴の防水の劣化があり、サビが発見できない場合は注意して見てみると良いだろう。
また雨漏りの直接原因ではないがトタン屋根上に水たまりができる場合があり、ここにサビや釘穴があれば即刻雨漏りに繋がる。
トタンが軽量なので下の構造材=小屋組が簡単に作られているケースがあり、さらにトタン自体が柔らかいため地震などによって凹みができやすいのだ。
一度雨が降った後に水たまりが無いか確認をさすると良いだろう。
DIYでの補修方法
トタンの雨漏り原因はサビのように目視ですぐに発見できる損傷ならDIYで補修は可能だ。
道具や材料もほとんどがホームセンターやネットで手に入れることができるため、早急に止めたい雨漏りにDIYは有効だろう。
最後でも触れるがくれぐれも安全に注意し、一時的な応急処置であることを理解の上で行って欲しい。
手軽なテープ補修
屋外で使える防水テープは非常に手軽にトタンのサビ穴や隙間を塞ぐことが出来るためDIYにも適したツールと言える。
折れ曲がりやジョイント、トタンで多い波板など、様々な形状へ合わせて貼ることができるため応用範囲は広い。
表面にアルミが貼ってあるものが耐久性が高くお勧めであり、必ず屋外使用が明記されているものを選ぼう。
欠点としては貼ったことがわかる点で、見る場所によっては太陽光の反射でかなり目立つ場合がある。
目立たせたく無いため透明のものを選んでしまいがちだが、大抵は屋外で露出しての使用を想定していない物なので注意しよう。
道具と補修方法
・まず貼る場所の塗装を紙やすりで剥がしておく。
これによりテープの付きが良くなるので丁寧に行おう。
紙やすりは手頃に手に入るが目の粗さには幅があるので、最初は何種類かがセットになったものがお勧めだ。
・次に中性洗剤を薄めた水に浸した雑巾で削りカスや汚れをしっかり拭き取る。
きれいになるまで何度も繰り返し、最後に水で絞った雑巾で仕上げ拭きを行う。
元々ある汚れや油分もしっかり取り除くことでテープの持ちが全く違ってくる。
また汚れが取れることで新たなサビが見つかることもあるので、広い範囲を拭くようにしよう。
・最後に防水テープを貼る。
防水テープは複数社からか発売されており数百円から1,000円強の価格で大きめのホームセンターやネットで手に入る。
少し広めで気泡が入らないように一気に貼るようにしよう。
応用範囲の広いコーキング
雨漏りの原因が屋根の隙間の場合はコーキングで埋めるのも有効な補修法だ。
家の様々な場所に応用範囲の効く補修方法で、今回の屋根防水以外でも屋内外で活用できるため、DIYに関心がある方は一度しっかり憶えておくと良いだろう。
ただ一般に思われているように単に打つだけではすぐに取れてしまうので、事前の下処理が重要になる。
手間を惜しまず十分に時間をかけて作業をして頂きたい。
道具と補修方法
・まずコーキングを打つ場所と周りをテープの時と同様に雑巾できれいに拭く。
その後マスキングテープで隙間の周りにコーキングが付かないよう養生をする。
・次にコーキングが付着する面に付きを補強するためのプライマーを塗る。
丁寧に塗るのがポイントで雑にならないように気をつけよう。
・その後コーキングを打つ。
少し盛り上がるくらい多めに打つのがポイントだ。
・コーキングを打ったらヘラを使って整え早めにマスキングテープを剥がす。
時間が経つとコーキングの表面が固まり始め、マスキングテープを剥がす時に一緒にコーキングが取れてしまう。
複数箇所を行う場合は1箇所ごとにテープの剥がしまで行ってから次へ移るようにしよう。
DIYは安全と耐久性に注意
DIYを行う上での最重要ポイントは安全の確保だ。
トタンの補修自体は上記の方法なら危険な訳ではない。
しかし屋根上は落下の可能性があり非常に危険な場所であることを理解し、作業の際はぜひヘルメットを着用してほしい。
ヘルメットなど大げさだと思う方もいるかもしれないが、プロの職人たちは地面の上での作業でさえ必ずヘルメットを着用する。
くれぐれもDIYでは1階の屋根までにし、少しでも不安があるようなら専門業者へ依頼することをお勧めする。
DIYは応急処置と心得よう
DIYとプロの仕事が最も違う点は補修した後の持ちだ。
経験はもちろんだが下処理や施工などの丁寧さが違っており、仕上がりの見た目ではわからないが時間が経つほどにその持続性の差が現れてくる。
また損傷から浸入した雨水によって内部が傷んでいるかは専門業者でないとわからない。
DIYでは気づかずにギズ口を塞いでしまい内部で腐食が進んでしまうことも有り得る。
DIYで雨漏りが止まったとしてもあくまで応急処置と考え、日を置かず専門業者の点検と根本的な補修を必ず行ってもらうようにしよう。
業者補修の相場価格
専門業者の補修は知識や経験に裏打ちされた高い技術の上で行うため、DIYで行ったようなテープ補修やコーキングでも持ちの良さに雲泥の差がある。
DIYで補修したのは良いがすぐに取れてしまい、何度も補修することになったり結局専門業者に頼むことになったりすれば、結局高くついてしまうことだろう。
相場を知った上で検討し、ぜひ長期的な視点でコストパフォーマンの良い方法を選択して欲しい。
部分補修
・費用相場:2〜3万円
DIYと同じテープ補修やコーキングのような部分補修でも、行き帰りを含めれば最低でも半日は職人を拘束するため、どうしても割高感は出てしまう。
そこで他の補修も依頼したり屋根全体の点検をしてもらったりなど、他の工事も合わせることでそれぞれの単価は抑えられる。
改めて家全体を見回し特に防水で心配なところが無いか探してみよう。
葺き替え
・費用相場:90〜100万円(建坪40坪の場合、足場代含む)
葺き替えとは既存の屋根を撤去し必要があれば下地も交換し新たな屋根を作る工法だ。
下地だけでなく更に下にある構造材の痛みなども発見でき、必要とあればその部分の補修も行え、根本的な耐久性を復活させることもできる。
新しく乗せる屋根材は小屋組みの耐荷重を考えトタン同様に軽量のガルバリウム鋼板になることが一般的で、耐用年数が30年と非常に長期になる。
ただし既存の撤去や廃材処分、場合によっては足場の費用がかかり高額なため、今後どれくらいの期間建物を利用したいかなど長期的視点で検討する必要があるだろう。
カバー工法
・費用相場:70〜90万円(建坪40坪の場合、足場代含む)
既存の屋根の上に新たな屋根を被せる工法で、撤去が不要なためコストを抑えられ工期も葺き替えより短くて済む。
ただし既存屋根の形状や下地を含めた痛みによっては施工できなかったり、屋根が入り組んでいたりとジョイントの防水が不完全になりやすいなどのデメリットもある。
今後の雨漏りが再発しない点は上記の葺き替えに一歩譲ることになるが、とにかくコストを重視したい方にはお勧めである。
再発防止のメンテナンス
雨漏りを再発させないために葺き替えが良いとわかっていても、予算が捻出できない場合もあるだろう。
そこでもう少し長期的な保護効果が期待できるメンテナンスをご紹介しよう。
DIYはもちろんだが、例え業者によるテープ補修やコーキングを行ってもあきまで応急処置であり、そう何年も持つものではない。
その上から更に補強の意味でメンテナンスを行えば持続性は飛躍的に高まるためぜひ検討して頂きたい。
屋根塗装
一般的には見た目がきれいになるイメージが強い塗装だが、劣化の防止という寿命を大きく伸ばしてくれる効果もある。
また塗装を行うことで表面の保護はもちろん微細なサビの進行を遅らせる効果もある。
さらに作業を行う際には全体的な屋根の点検も行ってもらうと良いだろう。
塗料にはその耐久性によって種類があり予算も異なるが、建物の使用年数の見通しと併せて検討するのがポイントである。
ここではトタンの用途を考慮した塗料を紹介する。
塗料 | 費用相場(20坪の場合) | 耐用年数 |
アクリル | 120,000円 | 5〜7年 |
ウレタン | 160,000円 | 8〜10年 |
シリコン | 200,000円 | 10〜15年 |
防水の再施工
費用相場:10万円〜
損傷している箇所だけでなく全体的な防水部分を再施工するのも、メンテナンスとしては大変有効だ。
主にコーキングの打ち直しになるが、施工されてからの年数と予算のタイミングが合うようなら、塗装と同時に行うことで多少コストを下げられるかもしれない。
また作業箇所数が多いとDIYでは不安な安全面も心配なく、雨水浸入による内部の損傷なども点検してもらえるため、専門業者に依頼するメリットは部分補修より大きいと言えるだろう。
火災保険で補修費をゼロ円に
雨漏りの補修は大抵が突然発生するため、額によっては家計への大きなダメージとなるだろう。
そこでトタン屋根の雨漏りを補修する際にぜひ検討して頂きたいのが火災保険の利用だ。
火災保険と言うと火事の時にだけ使うものと思いがちだが、実は火災以外にも自然災害や盗難など様々な住宅被害に使えるようになっている。
適正に利用条件をクリアできるなら常々保険料を払っているものなので使わない手はない。
ここでは火災保険で雨漏り費を補償する方法を解説する。
自然災害の被害なら補償される
台風や暴風雨、竜巻、大雪や雹、洪水など、自然災害による損傷で雨漏りが発生した場合はその補修費や内部の被害が補償される。
ただし経年劣化や人が壊してしまったもの、以前に一度保険を利用して直した部分の再発などは補償外になることもある。
また補修費が◯◯万円以上から対象など保険によって条件は様々なので、自身の加入している火災保険について一度保険会社に確認してみると良いだろう。
物置でも保険適用される条件
火災保険は住まいの保険であるが、敷地内にある物置や車庫、門や塀なども補償の対象とする保険も多い。
こちらも住宅と同様に自然災害による損傷であれば対象となり、もちろん雨漏りでなくとも補償される。
規模が大きくなれば費用もかさむだろうし、住宅や外構の損傷を一括で補修依頼できる業者ならコストダウンも期待できる。
火災とは関係ないとつい自費補修をしてしまいがちな部分だが、ぜひ一度保険内容を確認してみると良いだろう。
まずは実績豊富な専門業者へ相談
火災保険を利用した雨漏り補修で最も大切なのは、自然災害が原因で雨漏りの被害が発生していると確実に保険会社へ伝えることだ。
ただ申請書類の作成は手間と時間がかかる上に専門的な知識も必要なため、残念ながら一般の方には難しいものとなっている。
例え専門業者であっても不慣れな業者なら受理されないことがあるほどだ。
ここは申請実績の豊富な専門業者へ、原因の調査段階から相談するのが最も確実だろう。
丁寧に調査と見積もり作成をしてくれるようなら、実際の補修もしっかり行ってくれることが期待できる。
まずは現場を見てもらうことからスタートしてみよう。
まとめ
トタン屋根の雨漏り補修は一見するとDIYで行いやすいものに思えるが、補修の持ちを考えるとあくまで応急処置であると認識して頂きたい。
しかも年数が経っている屋根であるなら今後他の箇所で雨漏りが発生する可能性が高い。
ぜひ雨漏りするたびに補修を繰り返さないよう、塗装や葺き替えなど中長期的に安心できる方法を選ぶようにして欲しい。
その方がトータルでの家計の出費を抑え、安心して住める家にしてくれるはずである。
株式会社アーキバンク代表取締役/一級建築士
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。