プレハブは仮設建物や店舗、事務所、作業スペースなどで、その手軽さから非常に重宝されている建物だ。
しかしそこでの雨漏りは大切な設備や資材、あるいは書類などに被害を及ぼし、決して小さいものでは済まされない。
しかも対応を後回しにすれば建物の構造体に、腐食や錆といったさらに大きな被害を生んでしまうだろう。
建築のプロである一級建築士がお伝えするプレハブの雨漏り原因と修理の方法に目を通して頂ければ、適正な費用で安心確実な修理を行うことができるだろう。
ぜひ被害を最小限に食い止めるために活用して頂きたい。
この記事読むことで理解できること
放置すれば被害が拡大!雨漏り被害の恐ろしさとは?
雨漏りはその雨量が少ないとつい対応を後回しにしがちだが、その被害は想像以上に深刻なものになる。
内装を汚すだけでなく、中にある設備や資材、またパソコンや書類など大切なものを使い物にならなくしてしまうことも実際の被害では本当に良くあることだ。
また建物に腐食を発生させ多額の修理費が必要になる場合もあるなど、決して軽く考えてはいけない。
ここではプレハブの雨漏りにはどんな被害があり得るのか、注意喚起の意味で改めて見ておきたい。
内装のシミやカビ
雨漏り被害で真っ先に浮かぶのが内装のシミやカビだろう。
天井や伝わった壁のクロスはシミが出来て非常に見苦しくなり、また乾燥した後も浮きや剥がれが発生してしまう。
そして時間がしばらく経ってから現れてくるのがカビで、一通りの修理が済んだ後に現れるので気持ちのダメージも大きい。
もし店舗や事務所など来客のある用途でプレハブを使用していればきちんと修理しなければならないが、壁紙は汚れた部分だけ張り替えるという訳にはいかずある程度の範囲で張り替える必要があるので、修理費は想像より高額になるだろう。
建物本体の腐食
雨漏りにおいて内装以上に深刻なのが建物の構造体の腐食だ。
屋根や天井や壁に雨水が染み渡り錆や腐りを発生すれば、時間と共に拡大し建物の耐久性や耐震性も損なう。
対応が遅れれば遅れるほど修理費も高額になり、それは内装の費用とは比べ物にならないだろう。
設備や資材の水濡れ
実はこれが最もダメージが大きいと話す方が多いのが、中にある設備や資材、商品の在庫などの被害だ。
修理したり再度調達する場合は費用や時間がかかるだけでなく、それまでに費やした労力も失い、場合によっては取引先に迷惑をかけることさえあるだろう。
またパソコンが濡れてデータを失ったり、書類が使い物にならなくなったりと、今後の業務に大きな打撃を与える危険性もある。
被害が建物だけだと考えていると大きな落とし穴となるだろう。
漏電
雨漏りが電気設備などに入り込めば漏電が発生し、漏電遮断器が作動する。
しかし雨漏りがすぐに解消されなければ何度も遮断されることになり、電気製品の故障の原因にもなる。
特にパソコンやその周辺機器はデリケートに出来ており、故障だけでなくデータの消失の恐れさえあるだろう。
こちらも修理費以上に今後の業務への支障が大きいため注意が必要だ。
プレハブとはどのような建物か
現在は当たり前のように目にするプレハブだが、実はそこに求められる条件が雨漏りのしやすさに繋がっている面がある。
コストダウンや素早く設置できることはプレハブが持つメリットだが、そこが雨漏りをしやすい構造を招いていると言える。
ここではそのプレハブという建物の特徴と、そのメリットゆえの構造的リスクをお伝えしたい。
プレハブの由来
プレハブとは元々prefabricated=「事前に工場で製造された」という意味の言葉を略したもので、その語源通り工場生産されたユニットを現場で組み立てる建物である。
住宅用途としての歴史は古く昭和初期まで遡るが、今回取り上げている軽量鉄骨とブレースで構成されるものは昭和40年代ごろから普及してきた。
当初から建築現場や災害現場の仮設建物として主に利用されてきたが、徐々に内装や設備を充実させ店舗などの利用も増え、現在では事務所や店舗、作業スペースや倉庫など多くのシーンで当たり前のように目にする建物になっている。
プレハブのメリット
プレハブのメリットは主に以下の3つになる。
1.工場生産による均一の品質
2.設置の簡易性による短期工事
3.上記によるコストダウンのおかげで導入がしやすい
1は名前の由来にもなっており大きなメリットだが、実は2と3に雨漏りが起きやすい要因が潜んでいる。
プレハブの需要自体はひとえに工期とコストが抑えられている点なのだが、これにより丁寧な工事が行われにくく、しかも簡素な造りの建物が多くなってしまっている。
求めるユーザーの側もコスト重視な事情もあり、ある意味短期間で雨漏りが発生するのは当然とも言えよう。
次の項でその雨漏りに繋がりやすい構造のポイントを解説したい。
雨漏りになりやすい?プレハブの構造を解説
プレハブの作りはシンプルで、軽量鉄骨の柱と壁パネルで形を造り、ブレースと呼ばれる鉄材で引き締め強度を出している。
屋根は基本的に屋根材1枚で構成され、その下に防水層が無いことも当たり前のように多く、その屋根材が劣化したり施工が粗ければ即雨漏りとなるのだ。
通常の建物は屋根材、防水層、下地と少なくとも3層以上の構造になっているため、比べるとプレハブの雨漏りの危険性は段違いと言える。
中には屋根下に天井や断熱材が施工されている物もあるが、当然ながら防水には無関係であり、むしろ雨漏りの発見を遅らせる要因にもなるので逆に注意したほうが良いかもしれない。
もちろんコストをかけて屋根材下に防水シートが設けられている場合もあるが、自身のプレハブがどうなっているかは雨漏り対策の重要なポイントになるので、もし不明の場合は至急確認して頂きたい。
また中古が流通しているのもプレハブの特徴だが、なおのこと雨漏りに注意が必要なのは言うまでもないだろう。
プレハブ屋根の材質
プレハブの屋根の材質は多くが鋼製になっており、その種類によって耐久性や雨漏りの危険性が大きく変わってくる。
この点は現在の屋根の問題点の究明や、今後修理を検討する上で大きなポイントになるはずだ。
ここではその代表的な材質について解説するので参考にして頂きたい。
トタン
・参考価格:5〜6,000円/㎡(施工費含む)
トタンは鋼板に亜鉛のメッキを施したもので、安価で軽量なためプレハブの屋根に以前より多用されてきた。
加工もしやすく施工性に優れるが、一方で耐用年数がおよそ15年程度とこの後解説するガルバリウム鋼板のおよそ半分で、比べると錆も発生しやすいなど現代では物足りない部分もある。
しかしその建物をどれくらい利用するかによっては適切な材料となり、短期間の仮設の事務所などとして使うのであれば15年の耐久性は十分と言えるだろう。
ガルバリウム鋼板
・参考価格:6〜9,000円(施工費含む)
ガルバリウム鋼板は基材の上に亜鉛とアルミでメッキを施した材料で、耐用年数は30年前後と言われている。
トタンに比べ傷付いた際のメッキの自己補修機能が高く、錆に強いのも特徴である。
施工のしやすさなどはトタンと大きくは変わらないので、あとはコストとどれくらいのスパンで建物を考えるかのバランスになる。
長期的に建物利用を考えるならガルバリウム鋼板の方が当然適しているが、仮の建物として短期利用の場合はメッキでも十分という場合もあるだろう。
ただし長期利用の場合は屋根だけでなく外壁や内装などの耐久性も重要になるので、屋根だけのコスト差にならない点は注意が必要だろう。
プレハブ屋根の葺き方
プレハブの屋根の葺き方には大きく分けると以下に紹介する2つの方法がある。
それぞれにメリットやデメリットもあるので、まずは現在の葺き方を確認し、その方法に雨漏りの原因や耐久性の不安があるようなら、変更するのも一つの雨漏り対策と言えよう。
平葺き
トタンなど鋼板の屋根材を文字通り平面に並べていく葺き方で、コストが抑えめで工期も短くて済むというメリットがある。
本来は緩やかに勾配を付け雨を流す施工になるのだが、施工不良や施工後のプレハブの歪みなどで勾配が狂いやすく、雨が溜まるトラブルが起きやすい。
プレハブの利用を長期的に考えるなら、多少コストはアップするが次の折板葺きがお勧めだ。
折板葺き
鋼板を波形に成形した葺き方で、前述の平葺きよりコストは高目だが水はけが良く変形にも強い。
比較的大きな建物に用いられることが多いが、耐久性や水はけを重視して長期利用を考えている事務所や、店舗サイズのプレハブでも施工されることが多い。
もちろんノーメンテナンスという訳ではないので、長期利用の場合は定期的な点検や防水のメンテナンスは欠かせないだろう。
プレハブ屋根の雨漏り原因を徹底解説
プレハブの屋根はシンプルで防水対策は住宅などに比べると貧弱と言わざるを得ない。
しかしそれはプレハブの求められる使用目的と条件を考えれば仕方のないことと言えよう。
それよりもその弱点と雨漏りの原因を理解し、適切なメンテナンスを行うことでその多くが未然に防ぐことが可能となる。
まずはプレハブで起こる雨漏りの代表的な原因を解説しよう。
ボルトやビスの穴
屋根材が鋼板となるプレハブの場合は固定方法がボルトやビスとなり、その穴がどうしても雨漏りの発生原因になりやすい。
特に折板葺きの場合はボルトの数が多い上に露出しているものが殆どのため、十分に注意する必要があるだろう。
重ね部分や取り合いからの漏水
金属屋根はどうしても鋼板の重ね合わせやジョイント部分ができてしまう。
意外に思われるかもしれないが、この部分にコーキングなどの防水材は殆ど施工されていない。
あくまでジョイント部の折返しや重ねを複雑にすることで防水を取るという考え方だ。
しかし経年による歪みや熱による変形、地震などの揺れによる開きなどで、そこが雨水の入口となるケースがある。
また屋根材と外壁などのジョイント=取り合いが開くことで雨漏り原因となることも珍しくない。
特に年数の経ったプレハブは屋根周りの歪みや隙間をしっかりと点検するようにしよう。
錆による穴
鋼製の屋根材を使っている限り錆は避けられない損傷で、必ず発生するものと考えた方が良いだろう。
経年劣化だけでなく、風で飛んできた小石などで表面のメッキに小さな傷ができれば錆は発生するため、新しいプレハブだから無縁だと考えると危険である。
点のような錆でも一度発生してしまえばそこからの広がりは非常に早く、そのスピードはトタンかガルバリウム鋼板かは関係無い。
錆は初期段階では非常に小さく発見しにくいため、丁寧な定期点検が最良の防衛策となるだろう。
屋根の水溜り
プレハブ屋根の雨漏り被害を拡大させる原因となるのが、勾配不足や変形、排水不良による水溜まりだ。
先に挙げた雨漏りの入口ももちろん原因だが、屋根上に雨水が溜まることで雨量が大幅に増え被害を拡大させる。
原因は屋根材のたわみによってできた窪みや施工時の勾配不足など、プレハブ特有の造りに起因していることも多い。
また枯れ葉などのゴミ詰まりによる排水不良も挙げられ、特に店舗など看板を設置するために屋根周りをパラペットで囲んでいると、ゴミや枯れ葉が溜まりやすいので注意が必要だ。
雨漏りの発生時には屋根の排水状況や、水溜りができていないかを併せて確認するようにしよう。
水溜りが解消できないと先の侵入口をいくら補修しても、すぐに雨漏りは再発してしまうだろう。
プレハブ屋根の修理方法と費用相場
プレハブの屋根は簡易的な造りが多いが、修理となれば相応の金額がかかるだろう。
しかし仮設と考え使用している方だと、そのためにある程度の費用を出すのは抵抗があるかもしれない。
しかし本格的な建物と同様に放置すれば被害は確実に広がり、修理費用は上昇する一方であり、早めに手を打つことが最も安上がりだということ知っておいて頂きたい。
ここでは参考に代表的な修理の方法とその費用相場をお伝えする。
参考にして頂きぜひ適正な修理を早めに実施して頂きたい。
※以下の相場費用は専門業者へ依頼した場合となっている。
カバー工法
・費用相場:50万円前後(20坪の場合)
既存の屋根に新たな屋根を被せるのがカバー工法だ。
既存の屋根を撤去して新しい屋根を葺き替えるより安上がりで工期も短くて済む。
屋根が全体的に老朽化していたり、損傷が複数あり補修を繰り返してもなかなか雨漏りが治らない場合は、一気に解消できるという点もメリットだ。
被せる屋根の葺き方は既存と同じでも良いし、現在が平葺きであれば折板葺きに変えることも可能である。
長期的にプレハブの利用を考えるなら最もお勧めできる修理方法と言える。
塗装
塗装は修理としてというよりメンテナンスの意味合いが強い。
上記の簡易補修を行ったあとに全体の保護膜として塗装を行えば、屋根材の耐久性は大きく上がり、錆などの腐食も防げるだろう。
塗料は種類が豊富だが費用と耐用年数は概ね比例しており、予算と使う期間の見通しで選ぶと良いだろう。
塗料 | 費用相場(20坪の場合) | 耐用年数 |
アクリル | 120,000円 | 5〜7年 |
ウレタン | 160,000円 | 8〜10年 |
シリコン | 200,000円 | 10〜15年 |
フッ素 | 280,000円 | 15〜20年 |
簡易補修
プレハブの使用目的と期間を考えると簡易的な補修が適している場合もあるだろう。
コストも抑えられるし、店舗など修理で稼働を止められない場合などにも好都合だ。
ただし応急処置の意味合いが強く再発の可能性も残るため、何度も補修を繰り返すうちに高額になってしまうことも多い。
しっかり直すにはカバー工法で新規に屋根を作ってしまう方が確実であるし、簡易補修を行った後に塗装を行うのも良いだろう。
コーキング
・費用相場:5万円〜(箇所数による)
屋根の鋼板のジョイント部分や外壁との取り合いなどはコーキングで防水を行う。
コストも抑えられるし道具はどこでも手に入るためDIYでも可能だが、ジョイント部分は非常に長く繋がっているため、ピンポイントで打ってもなかなか治らない。
そのため広範囲を行えば時間もかかるため、初めから専門業者に依頼したほうが確実だろう。
ボルト穴防水
・費用相場:5万円〜(補修箇所数による)
鋼板を止めているボルトやビスの穴からの雨漏りは非常に多く、特に折板の場合は露出している上に数も多いので積極的に補修を行いたい部分だ。
ボルトに錆止めを塗り屋根板とのジョイントにプライマーとコーキングを打った後、ボルトキャップというゴム製のカバーを被せ専用ボンドで止める。
ポイントは今回雨漏りしているボルトだけでなく、近くの範囲やできれば屋根全体のボルトにも行うことだ。
劣化の程度は全体が一緒なので遅かれ早かれ他のボルトから漏れることも十分に考えられるからだ。
錆穴補修
・費用相場:2万円〜(補修箇所数による)
屋根の錆穴は補修用のテープで塞げば比較的簡単に補修が可能だ。
しかし錆穴は同時に複数箇所発生し、しかも非常に小さいものも多く1度で直らないことも珍しくない。
さらに一時的に直っても遠くないうちに別の場所から発生することもある。
補修テープ自体の耐久性はあまり長くないことを考えると、最低でも塗装やできればカバー工法を検討しても良いだろう。
火災保険を活用し修理の自己負担分を減らす
雨漏りは多くの場合突然発生する上に、程度によっては修理費が高額になることも珍しくなく、その費用の捻出は頭の痛いところだろう。
そこで検討して頂きたいのが火災保険の活用だ。
雨漏りで火災保険というとピンと来ない方もいるかもしれないが、加入されている火災保険によっては雨漏りの修理費用を補償してくれるものもあるのだ。
ではどんな保険なら利用できるのか、具体的な申請方法と利用する場合の注意点と併せてお伝えしたい。
利用出来る保険とは
火災保険には、台風や竜巻、大雪や雹などの自然災害によって被った建物の被害を補償するものがある。
これが利用できれば修理費の自己負担分を減らせる可能性があるのだ。
ただし対象は自然災害が原因によるものに限られ、経年劣化やその他の原因によるものは対象外になる。
さらには「修理費用が○○万円以上の修理を対象とする」など金額の条件が付くことも多い。
このため利用する前に一度お手元の証券や契約時の書類の確認や、保険会社に問い合わせをするなどして欲しい。
実際の申請手順
1.保険会社に連絡を入れ、自然災害を補償申請する旨を伝え必要な書類を送ってもらう。
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2.申請書類や雨漏りの原因と被害の様子を記した状況報告書を詳細に作成し、修理の見積もりと一緒に保険会社に送付する。
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3.保険会社から派遣される損害鑑定人の調査に立ち会い、雨漏り原因や被害状況を説明する。
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4.提出した状況報告書や鑑定人の報告をもとに保険会社が審査を行い、保険の対象になるかや金額が決定する。
利用する際のポイント
保険を利用する上で最も大切なポイントは、雨漏りの原因を正確に保険会社へ伝えることだ。
これがしっかりと行われないと、せっかくの保険が適用外と判断されてしまうことさえある。
しかしそれを伝える状況報告書を正確に作ることは、経験の無い者にとって非常に難しいのが現実だ。
ここは見積もり作成の段階から、保険の申請実績が豊富な専門業者に相談にのってもらう方が安心だろう。
修理はもちろん保険の申請も丁寧に対応してもらえれば、時間と気持ちの両面で大いに助かるはずだ。
まとめ
プレハブの雨漏りはそのシンプルな造りから考えれば、ある程度は予想されることと言える。
しかしその被害は決して軽いものとは言えないため、しっかりと原因を把握し早期対応で被害を最小限に抑えて欲しい。
火災保険の利用で費用の自己負担分を抑えながら、修理とメンテナンスをきちんと行えば、今後の再発のリスクを下げることにも繋がる。
ぜひプレハブの雨漏りを軽く考えず、大切な資産のためと考えてしっかりと処置をしてあげて頂きたい。
建築に関わる専門知識、経験を活かし、建築や内装に関わる「ヒト」「モノ」「サービス」を効率的かつ有効に結びつけるため、建築関連のオウンドメディアを運営。その他WEBコンサルティング事業、コンテンツ販売事業を展開。ホームページはこちらより。