壁のへこみを見た目だけの問題と考え放置しておくと非常に危険だ。
状態が時間とともに悪化し修理費が高額になるだけでなく、構造によっては隙間から虫が侵入するなど、その被害は表面上の問題に留まらない。
そこで今回建築のプロである一級建築士が、壁のへこみを自分で簡単に直す方法と、それに使える補修キットについて詳しく紹介する。
また賃貸における退出時の原状回復費用の参考にして頂くために、専門業者の修理費用の相場と、賃貸で責任を負うべき範囲も解説している。
ぜひ最後まで目を通して頂き、余計な出費を抑えるためにぜひ活用していただきたい。
この記事読むことで理解できること
壁のへこみを放置する危険性
壁のへこみを放置するとその症状は時間とともに確実に広がっていく。
そこが通り道であれば人が触れたり、ドアのそばであれば開け閉めの振動が起きたりして、へこみが崩れていく恐れがある。
また小さな子供やペットがいれば、いたずら気分でへこみを広げてしまうこともあるだろう。
特に壁の場合はクロスの下は石膏ボードという非常に崩れやすい材料を使っており、思われている以上に僅かな力で範囲が拡大していく。
また壁の中の構造によっては下から虫が這い上がってきて、家の中に侵入する可能性がある。
特に築年数の古い建物や賃貸のように気密性を考慮しない建物は、壁内部の下には小さな虫が入る程度の隙間は十分にあり、突然へこみの隙間から現れる恐れがあるだろう。
壁のへこみは決して見た目だけの問題だと侮らず、発見した場合は素早く対処するべき損傷だと言える。
手軽なDIY法と補修キットを紹介
壁のへこみを最も素早く直せるのがDIYによる補修だ。
現在は一般の方でも補修できるような道具と材料がセットになった「補修キット」が、ネットやホームセンターで簡単に入手できる。
初めてだと抵抗があるかもしれないが作業は決して難しくはないため、積極的にトライをしてみると良いだろう。
一方、でDIYで失敗を防ぐ最大のポイントは、多めに時間を確保して腰を据えて作業に取り組むことである。
DIYの失敗の多くが途中で飽きてきて作業が雑になったり、時間が足りなくなっていい加減に作業したりする点にある。
数日かかっても良いと言うくらいの気持ちで、ゆっくりと作業にあたるようにして欲しい。
小さく浅いへこみはシートで補修できる
5センチ以内の大きさで深くへこんでいないようなら、補修用シートで簡単に直すことができる。
ただシートをクロスとボードの間に貼るため、どうしても盛り上がりができてしまうことがある。
仕上がりを重視するのであれば、次項の下地を作り石膏ボードを入れ替える補修を行うと良いだろう。
手順
①クロスにコの字型に切れ込みを入れて一旦はがし仮留めする
クロスを剥がしてみたら中のボードが広く崩れている場合もあるので、へこみよりも一回り大きくクロスを切り取る。
②凹み部分のボードをカッターで切り取り補修用のメッシュシートを貼る。
③クロスを戻して壁紙用ボンドで貼りローラーで押さえる。
④継ぎ目が気になるようならクロス用シーリングで埋める。
クロスは白に見えてわずかにベージュやグレーが入っていることが多いので、しっかりと色を確認しながらクロスに近いシーリングを選ぼう。
深いへこみは下地を作って補修
へこみが5センチ以上と大きかったり、かなり深くまでへこんでいたりする場合は、シート貼りだと仕上がり後にクロスがくぼんでしまうため、壁の裏側から下地を作り新たに石膏ボードを貼り直す。
DIYに不慣れな方にとっては難しい作業のため、慎重に行うようにして欲しい。
手順
①クロスにコの字型に切れ込みを入れて一旦はがし仮留めする。
既に述べたが内部で石膏ボードが広く崩れている場合もあるので、カットは余裕を持って広く行うようにする。
②へこみ部分よりも石膏ボードを一回り大きく四角く切り取る。
内側で石膏ボードが崩れている場合もあるので、切り取った部分の内部を覗き込み、裏側で崩れていないか確認する。
もし内側に崩れが残っていればその部分も含めて再度カットしよう。
③切り取った穴の内側から下地となる木片を当てビスで固定し、その上から穴の形にカットした石膏ボードを貼る。
④ボードの継ぎ目にパテを盛り、乾いたらサンドペーパーで削って平坦にする。
⑤クロスを貼り戻しローラーで抑える。
クロスの継ぎ目が目立つようならクロス用シーリングで埋める。
専門業者の修理費相場
ここではへこみ補修を専門業者に依頼した場合の費用相場を解説する。
いずれの場合もこぶし大(およそ10センチ程度)のへこみに対する費用であり、大きくなったり深くまで達していたりすると、さらに高額になる。
また後述するが補修は依頼する相手によって同じ作業でも金額が大きく異なるが、以下はあくまで様々な業者の平均であることをご承知頂きたい。
補修内容 | 費用相場 |
クギやネジなどの穴 | 20,000円〜 |
こぶし大の穴や凹み | 30,000円〜 |
大きめの穴(石膏ボード張り替え含む) | 40,000円〜 |
※材料新規取り寄せ・出張費等は別途費用。
賃貸の責任範囲とDIYのリスク
賃貸のアパートやマンションでは退室時に現状回復の責任があり、借主側で付けた損傷については補修費用を負担しなければならない。
敷金を預けていればそこから費用が引かれ、もし補修が大掛かりで不足すれば追加の請求となる。
しかしどこまで借主の責任で補修費用を負担すべきか一般の方にはわかりにくく、いざ請求が届いたら予想より高額であった、というトラブルが後を絶たない。
そこでここではその責任の範囲と、一方で安易にその損傷をDIYで補修してしまうリスクについて解説する。
賃貸の借主責任はどこまでか
故意や過失によって部屋を傷つけた場合は、当然であるがその補修費用を負担しなければならない。
壁のへこみなら殴ってしまったり、うっかり物をぶつけてしまったりなどだ。
一方で通常の生活をしていても発生する損傷や自然な劣化については、責任は負う必要はない。
例えば家具を置いた背後のクロスの日焼けやベッドの足が床に付けた跡などで、注意を払いながら生活をしても避けようがない損傷は、責任を問われることは少ない。
これらの判断は国土交通省の発行するガイドラインが一つの目安となる。
「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」
https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/torikumi/honbun2.pdf
しかし壁のへこみについては現実として自然発生する事は考えにくく、補修費用を負担するケースが多い。
放置して状態が悪化し費用が高額になる前に急いで対処することが、出費を抑える最善策だと言えよう。
賃貸のDIY補修は結果的に安くならない
退出時の補修費用を安くしようとDIYによる補修を行っても、必ずしも安く済むとは限らない。
貸主側は次に借りる人に敬遠されないよう完全なる補修を求めているため、中途半端な仕上がりのDIY補修では退出時のチェックを免れることはできない。
結局は貸主側で手配する補修を避けられず、その費用を負担するのはもちろんDIYの材料費も無駄になるだろう。
賃貸において貸主側で補修をするなら、補修したことが全くわからないようなスキルを持つ補修屋などに依頼したほうが安全だ。
ただし賃貸によっては入居者が補修を行うことを禁じている物件もあるので、契約書や約款を確認した上で検討することが望ましい。
5:業者に頼むべきはどんな時?
さしあたっての出費はDIYの方が安く済むのは確かだが、前述の賃貸のように専門業者に依頼した方が結果的に費用を抑えられるケースが他にもある。
ここではその具体的なケースを2つご紹介するので、目先の出費ではなくトータルコストを冷静に判断するようにして欲しい。
補修跡がわからないように直したい
補修をした跡が分からないように直したいのであれば、DIYではなく専門業者に依頼した方が間違いない。
DIYでもある程度目立たなくなるのではと期待して行ったものの、予想以上に見苦しい結果となり結局専門業者に依頼する方は非常に多い。
また上手く仕上がったつもりでもいざ来客があるとなったら気になってしまい、やはり専門業者を頼ってくるケースもある。
壁のへこみに限らないがDIYによる補修経験が豊富で仕上がりの予想がつく方以外は、人目につく場所はDIYの仕上がりを過信せず、一度専門業者の見積もりを取るなど相談してから判断することをお勧めする。
へこみが複数や広範囲の場合
へこみの数が多かったり広範囲にあったりする場合も、DIYではなく専門業者に依頼した方が間違いはない。
この場合DIYでの仕上がりだと見苦しさが増してしまうだけでなく、それ以上にへこみ以外のクロスに隠れた石膏ボードが痛んでいて壁強度が落ちている可能性があるからだ。
もちろんそこまでの修復となれば石膏ボードの張替えが必要となり、DIYは困難となる。
またへこみの数が多ければ、それだけ壁内部にある電気配線や配管等を痛めている恐れも高く、建物の状態を確認してもらえるのも専門業者へ依頼するメリットだ。
いずれにせよへこみが1〜2箇所以上の場合は点検も兼ねて専門業者に依頼した方が、建物全体で考えたときに安心できると言えるだろう。
へこみを手頃に直すなら補修屋がお勧め
へこみの補修を専門業者へ依頼する場合に注意したいのは、依頼する相手によって同じ補修でも金額が大きく異なる点だ。
例えば一般的によく聞くリフォーム業者の場合、大きな工事が得意な工務店が手がけるため、小さな損傷でも壁を張り替えるなど高額な工事になりがちだ。
また賃貸では管理会社が手配する補修は、貸主側にどうせ借りた人間が払う費用だと言う考えがあるため、業者から上がってきた高めの見積もりをそのまま請求してくることが多い。
そこで手頃にへこみを補修するのであれば補修屋と言う専門業者がお勧めだ。
補修屋とは様々な損傷をピンポイントで補修するリペアのプロフェッショナルであり、腕の立つ者なら補修跡が全くわからないレベルで傷を消し去ってしまう。
また損傷した部分に絞って補修するため費用を抑えることができ、さらには直接作業を行う職人に依頼をするため中間マージン等も発生しない。
以下で補修屋の技術の高さがわかる動画をご紹介するので、依頼先として検討してみたらいかがだろうか。
補修屋へ頼む2つのメリット
様々な専門業者の中から、わざわざ補修屋に依頼するメリットは大きく2つある。
まずは仕上がりのレベルが他の補修を手がける業者と大きく違うことだ。
損傷をどれだけ完全に消せるかは、損傷の種類や補修方法の研究を日々重ねることと、実際に施工を数多く経験することに比例する。
そのため補修を専門の仕事としている補修屋のレベルは非常に高く、他の仕事もしながら片手間で補修を行う他業者とは残念だが明確な差がある。
賃貸や人に見られても恥ずかしくないようになど、完全に補修したい場合は補修屋を選んだほうが確実だ。
そしてもう一つのメリットはその守備範囲の広さだ。
優れた補修用であれば壁のへこみだけでなく、ドアの傷や床のシミなどあらゆる住まいの損傷が補修可能だ。
他にも普段から気になっている傷があるようなら、同時に頼むことで時間や費用を抑えることができるだろう。
補修屋の技術費用相場
参考までにへこみ以外の壁の損傷を含めた技術費用相場をご紹介する。
損傷のサイズや程度によって費用は増減するので、正確に知りたい方は一度見積もりを取ってみることをお勧めする。
補修内容 | 技術費用相場 | 備考 |
クギやネジなどの穴 | 10,000円〜15,000円 | 石膏ボードの損傷による |
こぶし大の穴や凹み | 25,000円〜40,000円 | 〃 |
大きめの穴(石膏ボード張り替え含む) | 30,000円〜 | 修復面積による |
※材料新規取り寄せ・出張費等は別途費用。
信頼できる補修屋選びの3大ポイント
メリットの多い補修屋だが一方で注意して欲しいのが、どの補修屋でも腕が同じではないという点だ。
補修屋を名乗る者の中には、単に建築関係の仕事をしている者がアルバイト感覚でやっている場合もあり、当然満足できる仕上がりにはならない。
飛び込みやポストにチラシが入っていたような業者は論外としても、依頼先の選定には注意が必要だ。
ここでは満足できる仕事を行う補修屋を見分けるポイントを3つご紹介したい。
実績が目で確認できる
損傷を完全に消すには多くの知識と経験が必要だが、それを見極めるのは難しい。
そこで目安にして欲しいのが、実績が目で見て確認できるかどうかだ。
例えば自社のサイトを持っていて、そこで補修の実績が画像とともに数多く紹介されているようなら、大きな安心材料となるだろう。
逆に文章ばかりでしかも良いことばかりや、値段の安さばかりをアピールしている補修屋は慎重に検討した方が良い。
言葉だけの経験豊富に惑わされないように気を付けて頂きたい。
見積もりや作業の内容を丁寧に説明
見積もりや行う作業の内容をきちんと説明しない補修屋は注意が必要だ。
見積もりが不明確ではどのような補修をされるか分からず、金額の妥当性はもちろん綺麗に直るかも疑問だ。
またどんな作業を行うかを事前に説明してもらわなければ、途中で手抜きをされても気づくことができない。
しっかりした仕事を行い腕に自信のある補修屋なら、それらをしっかりと説明してくれるはずだ。
見積もりを受け取った際はその金額だけでなく、どのように説明をしてくれるかをしっかりと見極めるようにしていただきたい。
アフターフォローがしっかりしている
補修は終わってから時間が経つと、光の具合で色の違いが気になったり、パテや塗料が乾燥してへこみが再発したりすることがある。
そのため代金を支払った後でも、しっかりとアフターフォローをしてくれるかどうかが重要だ。
補修の仕事は多くが1日で作業を完了し代金の回収までできるため、中には支払いが済んだら音信不通になり、不具合が見つかっても対応してくれないところが存在する。
そういったトラブルを避けるには、依頼先は名の知れた大きな会社であったり、信頼できるところからの紹介であったりなど、工事後も確実に連絡が取れる相手を選ぶようにすると良いだろう。
火災保険でへこみを0円修理
補修屋に依頼したいがやはり金額がネックだという方は、ご自身の加入する火災保険をぜひ確認してみて欲しい。
現代の火災保険は火事に限らず自然災害や盗難など、住まいのあらゆる損傷を保障する総合保険になっており、壁のへこみも条件が合えば補修費用が補償される。
ここではその保険を利用できる具体的なケースと、保険を利用して補修を依頼する業者選択の注意点について解説したい。
保険が適用になるケース
持ち家で壁をへこませてしまった場合、加入する火災保険の「不測かつ突発的な事故による汚損・破損」に該当すれば補償される。
例えばうっかり物をぶつけてしまったり、子供がおもちゃを投げつけたりしてへこんだ損傷が対象となる。
条件としては発生した日時や原因がはっきりしており、さらに損傷によってその機能に支障が出ている場合に保証されやすい。
逆にいつの間にか壊れていたり、自然な劣化で損傷していたりする場合は対象外となる。
一方賃貸では入居時に加入した家財の火災保険に「借家人賠償責任担保特約」が付いていると、壁の修理費が補償される可能性がある。
これは賃貸の部屋を痛めて貸主側から損害賠償を求められた場合に保障されるものだ。
これらの詳細な適用条件は商品や保険会社によって異なるため、契約時の書類や証券等で確認し、どうしても不明な場合は保険会社に問い合わせるなどしてみよう。
保険利用で大切な業者の実績
保険を利用して補修を行う場合、保険会社に損傷の原因や現状を書類で適切に伝えなければならないが、これは例え補修屋であっても経験が少ないと難しい作業となる。
仮に腕は確かでも申請に不慣れな補修屋に依頼してしまうと、保険対象となるべき損傷が書類の不備で否認されてしまう可能性があり、何のために保険料を支払ってきたのかわからない。
保険を利用する際は必ず依頼先の申請実績を確認するようにし、経験豊富な専門業者を選ぶようにしよう。
まとめ
壁のへこみは放置すると時間とともに拡大し、補修費用の上昇を招くため素早く対処する必要がある。
DIYによる補修が可能であれば積極的に行うべきだが、補修跡がわからないようなレベルに仕上げたい場合や、賃貸のようにDIY補修では意味がないケースなどは、専門業者へ依頼する方が適切だ。
同じへこみ補修でも依頼先によって費用や出来が違うため、しっかりと相手を見極める必要があるが、高い技術を持つ補修屋に完璧に傷を消し去ってもらえれば、満足度は非常に高いだろう。
現在加入されている火災保険によって費用を抑えることができるのなら、プロの技術に頼らない理由はない。
現在は損傷の写真をメールで送れば無料で見積もりをしてくれる補修屋もあるので、まずは一度見積もりを依頼してみることをお勧めする。
株式会社アーキバンク代表取締役/一級建築士
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。