土壁の穴は見た目の問題だと、対処を後回しにしていると非常に危険だ。
年数の経過しているものなら刻一刻と穴は広がり、最悪崩落の危険さえある。
そこで今回は建築のプロである一級建築士が、安価に補修のできる土壁のDIY方法をお伝えする。
素早く対処し被害の拡大を食い止める上でDIYは非常に有効なため、ぜひ参考にして頂きたい。
また併せてリペアのプロである補修屋に依頼するべき損傷の例もお伝えしており、仕上がりを重視し失敗のリスクを避けたいという場合には、こちらもぜひ目を通して欲しい。
この記事読むことで理解できること
放置すると危険な土壁の穴
土壁は以前の日本家屋には多く用いられてきた壁の工法だが、残念ながらその強度は高いものではなく、年数の経った壁に穴が空いていれば徐々に拡大をしてしまう。
地震などの揺れで広がったり、子供やペットが面白がって触れて広がってしまったり、そうなれば修理費の上昇や最悪壁自体が崩れてしまうことさえある。
さらに穴から虫が室内に入ってくることや、隙間風が吹き込んでくることもあり、住環境の悪化にも繋がっていく。
土壁を使った建物は相当年数が経過したものが多く、新しい住宅とは細部の作りが大きく違うため、たかが穴でもまさかと思われるような被害を引き起こしてしまう。
決して見た目の問題と侮らず、早急に適切な処置を行うことが重要であることを知っておいて頂きたい。
DIYによる土壁の穴の補修方法
DIYによって補修が可能ならそれが最も素早く穴の損傷に対処できる方法だろう。
しかも現在ではネットで多くの補修キットが入手可能であり、費用を抑えることにも繋がっていく。
そこでここでは。土壁の穴を手軽に補修できる代表的なDIY方法をご紹介したい。
土壁パテ
既存の土壁と同様の風合いや調湿機能などを求めて補修するなら、土壁系の補修材が良いだろう。
施工は最も手軽であり初心者にもお勧めで、目安としては2センチ以下の小さな穴なら十分に塞ぐことができる。
ただし既存の壁と違って白く仕上がるため、同じ色合いにするなら補修後に色付けをしてみると良いだろう。
手順
①刷毛などで穴の周りのホコリやゴミを取り除く。
②穴の周りにマスキングテープを貼って養生する。
③水を入れた霧吹きや濡らした布で施工部を湿らせる。
④説明書にある指示量の水を混ぜこねる。
水が少なめだと粘土状になり塗り込みが楽だが、剥がれやすくなるので注意しよう。
⑤コテを利用して穴に塗りこむ。
乾燥時間は説明書の指示に準ずるが概ね1日、冬場は2日といったところだ。
乾燥後ヒビが入った場合は重ね塗りを行う。
漆喰
漆喰は珪藻土などを主成分にした京壁の塗装材で、調湿作用が土壁と同様にありながら、接着が良いために耐久性に優れる。
土壁のボロボロ落ちてくるのにお困りの方にもお勧めしたい。
若干仕上がりは違うが色も数種類用意されており、小さな穴なら単にパテや塗装で仕上げるよりは違和感は無いだろう。
手順
①刷毛などで穴の周りのホコリやゴミを取り除く。
②穴の周りにマスキングテープを貼って養生する。
③説明書にある指示量の水を混ぜこねる。
少し時間を置いて粘りが出てきてからヘラで穴に塗り込む。
もし土壁が傷んでおりボロボロと崩れてくるようなら、下地強化剤をスプレーし固めてから施工すると良いだろう。
穴が深い時の下地作り
穴が貫通しており補修材を盛っても奥に入っていってしまう場合は下地を作る必要がある。
本来は桟木などの木材を裏から当てて奥に壁を作るのだが、DIYでは難しいため簡単に下地を作る方法をご紹介する。
メッシュテープ
メッシュテープあるいはネットテープと呼ばれる網状のテープを貼って下地の代わりを作るのが最も簡単な方法だ。
目安だが2センチ以内の小さな穴であれば十分機能してくれるが、さらに大きめの穴だとパテなどを盛った後に凹んでしまうので、慎重に判断したい。
またわずかに盛り上がりはできてしまうので、どうしてもそれを避けたいのなら、後述する発泡ウレタンによる下地作りが良いだろう。
手順
①貼る部分のホコリを取り除き、バリなど出っ張りがあればカッターで削っておく。
②ネットテープを貼り粘着部分を雑巾などで軽く叩いておく。
③その上からパテを塗る。
乾燥後、表面が凹むようなら2度塗りをしよう。
発泡ウレタン
穴が深かったり直径が2センチ以上だったりと、大きめの穴に下地を作るなら、スプレー式の発泡ウレタンがお勧めだ。
メッシュテープよりは手間が少しかかるが、何度か練習をしてから取り組めばそう難しくはない。
手順
①刷毛などで穴の周りのホコリやゴミを取り除く。
②穴の周りにマスキングテープを貼って養生する。
③水を入れた霧吹きや濡らした布で施工部を湿らせる。
④穴にスプレーし膨らみ切るのを待つ。
概ね2倍に膨らむが、製品ごとに膨らみ方や時間が違うので、必ず練習をしよう。
⑤乾燥したらカッターで壁と平面になるよう削り取る。
⑥最後にパテ塗って仕上げる。
パテと発泡ウレタンの組み合わせによっては溶解する場合もあるので、練習の際にパテも塗って試しておこう。
仕上げを変えてしまうのも手段の一つ
穴が大きい場合や複数あるなら壁全体に補修を加えてしまうのも一つの手だ。
手間と費用がかかるのでDIYとしてはワンランクレベルアップするが、部分で行うより補修跡は目立たないので、腕に覚えがあるならトライしても良いだろう。
ただし補修の範囲が大きい分プロの仕上がりにはなかなか及ばないため、見映えより費用やこれ以上損傷が広がらないことを優先したい、という場合に行って欲しい。
塗装
塗装は一定の面積があっても比較的手軽に行える補修だ。
仕上がりは平坦な印象になってしまうが、色を慎重に選んで部屋の模様替えと割り切れば違和感は少ないだろう。
手順
①刷毛などを使って壁表面のホコリを取る。
②マスキングテープや新聞紙を使って周りを広めに養生。
床にはブルーシートなど塗料が染み込まないものを敷く。
③シーラー(水性硬化剤)を塗る。
④シーラー乾燥後、シールパテで穴や凹みなどの損傷を補修。
⑤シールパテが乾いたら塗料を塗る。
塗料は必ず室内用の水性のものを選ぶこと。
一度塗りでOKのものもあるが、できれば2度塗りした方が仕上がりがきれいでお勧めだ。
漆喰塗り
土壁の風合いを変えたくないなら漆喰塗りも良いだろう。
仕上がりは土壁に近く調湿機能なども備わり、接着力は高いので崩れてくることも少ない。
反面で細かなヒビ割れは発生しやすいので、承知の上で取り組もう。
手順
①〜④は塗装と同じ
⑤最後に珪藻土を塗装
こちらも乾燥後もう一度塗っておくとヒビ割れを軽減できる。
クロス張り
後々のメンテナンスを優先するなら、壁紙をはってしまうのも良い。
織物調や塗り壁風など色柄共に豊富に種類があり、ネットで小さなサイズから購入可能だ。
シール付きのものを選べば貼ること自体は難しくないが、一人では作業が困難なので手伝いの人間は必要になる。
また土壁に直接貼る方法もあるが、シーラーなど下処理をしてからの方が耐久性は高まる。
手順
①〜④は塗装と同様
⑤最後にヘラやローラーを使いながら壁紙を貼り付け。
貼り付けを丁寧にやるかで仕上がりが変わるので、時間をたっぷり取って行おう。
プロへ依頼すべき3つの基準
ご紹介したようにDIYで行える土壁の補修はいくつかあるが、見極めを誤るとより損傷を広げてしまったり見映えを悪くしたりしかねない。
DIYで失敗して結局プロに依頼してくる方が結構いらっしゃるのは、プロの補修屋なら誰でも知っていることだ。
その場合はDIYで修復した部分を撤去するなど、初めからプロに依頼するより費用がかかることも少なくない。
下記の基準を参考にし、少しでも不安があった場合は一度プロの見積りを取ってから慎重に検討することをお勧めする。
土壁自体が劣化している
土壁表面が全体的にボロボロ落ちてくるような状態だと、補修をしてもすぐに剥がれてしまったり、最悪崩れてくるのが早まったりしてしまう。
こうなるとDIYの補修が無駄になるどころか、壁全体の本格的な入れ替えに発展してしまい、費用も非常に高額なものになるだろう。
補修をする前に、壁に触ると表面が落ちてきたりしないか、あるいは全体に細かいヒビが入っていないかを確認し、劣化が進行しているようなら一度専門業者に見てもらってから判断した方が良いだろう。
特に年数が経っている土壁は、表面的にはそれほどではなくても中の下地が傷んでいる場合も多いので、慎重に判断するようにしたい。
穴が大きかったり数が多かったりする
前項で穴が大きい、あるいは複数ある場合の補修方法をご紹介したが、それはDIYとしてはレベルの高い作業となる。
そのためDIYの経験があまり無い方は、無理をせず専門業者に任せることをお勧めする。
特に下作業の穴や凹凸をキレイに平坦に仕上げるのは思われている以上に難しく、見映えが悪くても構わないという方のみ行うべきDIYだ。
まして穴が1箇所だったり小さなものであったりすれば良いが、大きさや数がある場合は、非常に残念な仕上がりになることも考えられる。
完成度を重視した補修にするなら、初めから補修屋に依頼する方が間違いが無いだろう。
なるべく早く直したい
DIYの補修は取り掛かってみると想像以上に時間がかかるはずだ。
作業自体が手探りな上に失敗も有り得るし、材料が途中で足りなくなって取り寄せるまで作業が中断することも珍しくないだろう。
何日にも作業が及べば、せっかくの休日の時間を奪われるだけでなく、部屋によっては生活に支障を来したり、あるいは温度や湿度の変化で塗りの色が変わってしまったりすることもある。
また予想より時間がかかって間に合わなくなり「◯日に来客があるのでそれまでに大至急直して欲しい」という依頼は、補修屋なら誰でも一度は受けたことがあるはずだ。
時間を無駄にせずなるべく早く確実な補修を行いたい場合も、プロの補修屋に任せることをお勧めする。
補修屋とはどのような仕事か
補修屋とは表面の傷や凹み、穴やシミなどを高度な技術で直し、しかもその跡がわからないようにしてしまうリペアのプロのことだ。
良く耳にするリフォームの場合は、程度にもよるが穴がいくつかあれば壁を撤去し、新たなものを作ることになる。
確かに後々の心配もないし、土壁から違う素材に変えてしまうこともできるので安心な面はあるが、その分高額になり工事日数もかかってしまう。
一方補修の場合は穴などの損傷部分だけを直すので、比較的安価でしかも短時間で終わらせられるので、非常に手軽に利用することができる専門業者だ。
ここでは気になる補修屋の技術費用の相場と、信頼できる業者選びのチェックポイントをご紹介するので、積極的に検討してみたらいかがだろうか。
技術費用相場
作業内容 | 技術費用相場 |
穴の補修+必要であれば下地補修 | 15,000円〜 |
壁の一面補修(90cm✕200cm) | 50,000円〜 |
※補修の範囲により増額に場合あり。材料新規取り寄せ費や出張費は別途必要。
信頼できる補修屋を見分けるには
補修屋に頼み慣れない方にとっては、どういった相手を選べばよいか分からないというのが本音だろう。
しかもネットで調べると騙された例などが見られ、果たしてどんな業者が良いものか不安を感じるはずだ。
そこで信頼できる補修屋を見分けるポイントをご紹介したい。
当然だが真面目に仕事に取り組んでいる補修屋がほとんどであり、お客を騙すような者はごく一部だ。
しっかりと依頼先を見極め末永く付き合える補修屋を見つけて欲しい。
アフターメンテナンスがしっかりしている
補修は工事が終わっても時間が経過すると乾燥によって凹んでしまったり、照明の辺り具合で色ムラが見えてきたりすることがあり、アフターメンテナンスも大切な仕事の一つである。
しかし補修は短時間で作業が終わることが多いため、いい加減に仕事をして代金を回収し、その後の面倒見は良くない業者も存在する。
そのようなトラブルを避けるためには、チラシがポストに入っていたような業者や、値段の安さばかりをアピールしてくる業者は避けた方が良いだろう。
出来る限り名の知れた会社や信頼できるところからの紹介のような、後々も確実に連絡が取れるような業者に依頼するようにしよう。
実績がサイトで確認できる
補修という仕事で仕上がりの良さの決め手になるのは豊富な経験だ。
損傷はその都度素材や痛み方、劣化の具合が異なり、その組み合わせに同じものは2つとなく、取るべき方法、道具、補修材を数多くの中から選ぶ必要があるのだが、そこには豊富な経験がものを言う。
また色付けや柄を元の壁と同様に描く作業は、正に職人芸と言え一朝一夕に身に付くものではない。
これらの経験に裏付けされた腕前を見極めるには、例えば自社サイトに多くの実績が紹介されていることが有効な判断材料となる。
相手の言葉だけでなくなるべく目に見えるもので確かめたほうが、トラブルは避けられると言えるだろう。
見積りや工事内容をしっかり説明する
当たり前のことに思える見積りや補修の作業内容の説明を行わない業者は意外と多い。
これでは補修がどんな仕上がりになるかわからないし、手抜きをされても気付けないばかりか、そもそも見積り金額が適正かも不透明だ。
もちろん依頼側が全ての項目を理解するのは難しいかもしれないが、それでもしっかりと説明をしてくれる姿勢は非常に大切であり、仕事の丁寧さに繋がるとも言える。
「具合を見ながら」や「臨機応変に」と言った言葉ではぐらかす者もいるが、十分な経験があれば大抵の補修の見通しが立つはずで「やってみないとわからない」というのは経験不足を自ら認めているようなものだ。
そのため納得の行く見積りと作業の説明ができない業者は避けた方が無難だろう。
火災保険で補修費用を抑えるテクニック
プロの補修のメリットは理解できても、やはり金額がかかるので依頼するか迷ってしまう、という方はぜひ火災保険の利用を検討して欲しい。
壁の穴の修理で火災保険と聞くと不思議に思われるかもしれないが、現代では火事だけでなく台風や大雪のような自然災害や、盗難など幅広い損害を補償してくれるものが多い。
せっかく保険料を支払っており、今回の壁の損傷の費用も補償されるなら使わない手は無いだろう。
そこでここでは、具体的にどういった損傷が補償されるのか、また保険利用の際の業者選びの注意点を解説したいと思う。
どのような損傷が補償されるのか
火災保険で土壁の穴が補償される項目は「不測かつ突発的な事故の汚損・破損」の補修費である。
これは例えばタンスを運んでいてうっかり土壁にぶつけて穴を空けてしまった場合や、お子さんが遊んでいて壁を壊してしまった場合などだ。
特にこの補償は壁の機能に支障が出た場合に対象とされる傾向があり、また発生した日時や原因がはっきりしている必要もある。
逆に故意に穴を空けたり経年劣化でいつの間にか穴が空いていたりという場合は補償にならない。
他にも一部自己負担額があったり、修理費に上限下限があったりなど、保険によって様々な条件があるので、一度保険証書を確認してみると良いだろう。
保険利用での業者選びは実績重視で
保険を利用する場合は保険会社に、損傷の原因や状態を正確に伝えなければならないが、これは一般の方だけでなく、申請経験が少ない補修屋にとっても難しい作業になる。
いくら補修の腕が確かでも保険の申請はまた別の話しであり、これが不十分だったために保険会社の審査が通らず、補償されない場合もあるのだ。
これでは何のために日頃から保険料を支払ってきたのか分からず、非常にもったいないことになってしまう。
保険を利用しての補修を検討する場合は、必ず保険の申請実績を確認し、経験豊富な補修屋を選ぶようにしたい。
着工や入金のタイミングに注意
業者の中には保険会社の審査が終わらない内に「審査は必ず通るから」と着工や入金を求めてくるものもいる。
もし着工や入金をしてしまえば材料や職人を手配され、万一審査が通らなければ費用は全額自己負担になってしまう。
それを承知で着工や入金を急かしてくる業者は、自分の儲けのことしか考えていないと言え、実際の工事もお客の立場に立った仕事を行うとは到底思えない。
保険を利用して補修を行う際は、審査が通ってからの着工や入金で構わないとしている業者を選ぶようにしよう。
まとめ
土壁の穴を放置するとその損傷は広がり、修理費が高額になったり虫が侵入したりと、被害は拡大していってしまう。
もし発見した場合は早急に補修を行う必要があり、その点でDIYは素早く安価に対応できる有効な手段だ。
しかし土壁の劣化状態が進行していたり仕上がりを重視したりする場合は、信頼できる補修屋に依頼した方が安心だと言える。
そして火災保険によって補修の費用が補償されるなら、プロの補修を依頼しない理由は無い。
満足いく仕上がりと長期的に補修が保たれることをしっかり考慮し、最善の選択を行って欲しい。
株式会社アーキバンク代表取締役/一級建築士
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。