アパートの壁に穴を開けても慌てないですむ!すぐに役立つ手立てを紹介

実は、家の壁は想像以上に脆い存在だ。外壁と部屋の壁の間には断熱材があるが、部屋と部屋の壁である間仕切りの場合には石膏ボードの内側が等間隔に配置された木材だけと言う場合が多い。要するに、空洞が存在することがある。

この想像以上に脆い壁に穴を開けて大慌て、と言う経験をした方もいるだろう。

特に、アパートだと退去の際に原状回復義務があり、敷金から大幅に修復費用を差し引かれてしまうと思うと辛気臭くなる。だが、安心して欲しい。本稿で直ぐに役立つ手立てを紹介する。

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アパートの壁の構造と材料

孫子の兵法に、彼を知り己を知れば百戦殆うからず、と言う戦略がある。

正しく、部屋の壁に穴を開けてしまった場合の対処法を習得する為には、壁の構造や材料に関する知識をマスターしなければならない。

壁の種類と構造と特徴を知ろう

壁に穴を開けるというインシデントが発生するのは、部屋と部屋の間になる間仕切壁である場合が大多数だ。そこで、本稿では、間仕切壁を中心に説明していくので、その点をご承知おき頂きたい。

木造軸組構造、重量鉄骨構造、RC構造と様々な家屋の作り方がある。だが、間仕切壁の構造は使用する材料に違いはあるが、図1に示すような構造をしている。間仕切壁の表面には壁紙が露出しており、その内側には石膏ボードが設置されている。

石膏ボードは、間柱によって保持されており、間柱と間柱の間は、空中構造である。中空構造であるが故に打撃に対しては耐性が低い。間仕切り壁は、図1に示す様にAA‘軸に対して対称な構造となっている。

図1.間仕切壁の模式図

図1.間仕切壁の模式図

壁に用いられる材料を知ろう

在来工法の家屋では、間仕切り壁に存在する間柱は木材製だ。だが、多くのマンションやアパートの壁はLGS(igt)G(auge)S(teel)といわれる薄い鉄鋼製の部材を使用しており、間柱は鉄鋼製だ。

このLGSに石膏ボードを張合わせる。石膏ボードは耐火性や遮音性に優れた建材で、中心部が石膏で作られ、両側から板紙でサンドイッチした構造となっている。石膏は、硫酸カルシウムの2水和物でCaSO4・2H2Oという化学物資である。

この2水和物であることが耐火性を高めている。高温に晒されると結晶中の水分が脱水する過程で回りの熱を奪うことによる。壁に仕上げる場合は、この石膏ボードにクロスを張付ける。

原状回復義務と国交省のガイドライン

原状回復義務と国交省のガイドライン

対象が賃貸物件である場合には、単に補修すれば終わり、と言う訳にはいかず、その前後で注意すべき点が存在する。例えるなら、地雷原を歩くには案内が必要だ。地雷を踏むと事態の悪化を招き、余分な手間とコストを要することになる。

原状回復義務 賃貸物件の掟

民法(注)に規定されており、契約を解除した場合に、相手側を元(原状)の状態に戻す(回復)義務を負うことだ。簡単に言うと店子は、撤去する場合には部屋を借りた時点の状態に戻す義務があると内容だ。

ところが、この原状回復義務により、大家・管理会社・店子の間で部屋の補修費用を巡りトラブルが多発していた。簡潔に言うと、補修すべきダメージの原因の責任を借主とすべきか、経年劣化と判断すべきか、と言う点に帰着する。

注)電子政府の総合窓口 民法 第545条第1項

https://elaws.e-gov.go.jp/search/elawsSearch/elaws_search/lsg0500/detail?lawId=129AC0000000089#1997

国交省のガイドラインとは?

原状回復義務を巡り、当事者同士では合意出来ずに裁判に持ち込まれる事案も多発したので、民間対民間の争いを解決しやすくする為に行政側も対応する指針を打ち出した。これが、一般的にガイドライン(注)と呼ばれている

これは、原状回復の費用負担について、妥当と考えられる一般的な基準をガイドラインとして平成10年3月に取りまとめたものだ。そして、平成16年2月及び平成23年8月には、裁判事例及びQ&Aの追加等の改訂が行われた。

注)国交省HP 「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」について

https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html

ガイドラインの意味するところとは?

原状回復に関して、ガイドラインでは借主が借りた当時の状態に復旧させることではないことを表明している。そして、ガイドラインでは、原状回復を以下に示す様に定義しているので、この部分は十分に咀嚼して欲しい。

原状回復とは、「賃借人の居住、使用により発生した建物価値の減少のうち、賃借人の故意・過失、善管注意義務違反、その他通常の使用を超えるような使用による損耗・毀損を復旧すること」であり、その費用は賃借人負担となる。

ガイドラインの原状回復の定義から、経年劣化や賃貸人の住居・使用による変化は通常の使用の仕方であれば賃料に含まれていることになる。簡単に言うとオーナー負担で、原状回復義務の範囲外と言うことだ。

ガイドラインは最強か? 賃貸物件の契約の注意点

原状回復は民間対民間の事案と言う位置付けになるので、私的自治の原則により当事者の合意が優先する。この合意は、賃貸借契約書と言う文書の形で双方が保管することになる。だが、多くの借主は、内容の把握が不十分であることが多い。

前述の様に賃貸借契約は私的自治の原則の下にある契約なのでガイドラインの内容より締結された契約が優先される。ガイドラインの内容より、契約書における原状回復義務の内容が広範囲に規定されていれば、原則その内容に従うことになる。

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穴の大きさとダメージの程度が分かれ道 自作か専門家?

穴の大きさとダメージの程度が分かれ道 自作か専門家? 

壁の穴と言っても、サイズと損傷の具合は様々だ。よって、補修の手立ても異なり、穴が開いたら全てDIYでもなく、全て専門家への依頼でもない。最適な手段を見切れる選択眼を養うことで、コストパフォーマンスが高い補修に繋がる。

画鋲やピンの穴はDIYでOK?

ポスターやカレンアーを壁に掛ける為に画鋲やピンで壁のクロスに穴を開けることがある。実は、この程度の穴であれば、ガイドライン上(注)では通常の損耗の範囲とされているので原状回復において賃借人の責任外だ。

注)原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)

http://www.mlit.go.jp/common/000991391.pdf

画鋲等の穴は原状回復義務の責任外とはいえ、クロスの穴として目立つ場合があるので、補修したくなる。ただ、画鋲やピンで開けられた穴であればDIYでの補修は可能だ。具体的な補修の方法は後述するので参考にして欲しい。

石膏ボードが破損したら専門家へ依頼

画鋲やピンで壁に穴が開いた場合には、石膏ボードにも穴が開くが石膏ボードへのダメージは特に問題は無い。また、壁表面のクロスの穴の補修に関しても特に問題の発生はない。だが、石膏ボードまで破損が及んだ場合には手間がかかる。

補修の工程は、後述するが、一読した限りでは、高難度の補修と考える方は少数派かもしれない。だが、石膏ボードの穴を塞ぐプロセスに熟練の技を必要とするので、仕上り状態を考えると専門家に依頼すべき破損だ。

クロスの破損は専門に依頼した方が仕上がりは美しい

ダメージが石膏ボードに達せずに、クロスに留まっている損傷ならDIYで補修できる。ただ、問題は補修部とその周辺部の色調や紋様の相違が明らかな場合だ。補修が小さく、色調も周辺部と同等に仕上がるなら、補修跡も目立たない。

だが、多くの場合は、壁一面の張替えが必要となる。一面張替えは、専門家に依頼すべき領域となる。クロスとクロスのつなぎ目や天井や巾木との際を美しく仕上げるには熟練の技が必要だ。

DIYで補修 材料と道具と手順

DIYで補修 材料と道具と手順

壁に穴が開いた、クロスが剥がれてしまったら、兎に角“補修”と言う言葉が頭に浮かぶだろう。退去時の原状回復義務のことを考えると当然だ。DIYで補修できれば、材料代と道具の購入費用だけなので出費も大きな痛手とならない。

補修で用いる材料や役立つ道具とは?

補修の工程は、切ったり、塗ったり、削ったり、といった作業を組合せて補修痕が目立たないレベルに仕上げている。これらの作業に役立つ材料や道具はホームセンターやネットショップで容易に入手可能だ。だが、以下の事例に示す様にキットやセットの形式で販売されている。

また、画鋲やピンで生じた穴はDIYで補修可能な旨を述べたが、クロスの穴補修専用のキットも販売されているので、壁のダメージのレベルに合わせて補修用の材料と道具を選択して欲しい。

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補修前と補修後の比較と補修の手順の概略

壁の穴を専門家が補修した事例を以下に示すので、専門家による補修の有効性を確認して欲しい。プロの手による修復では、補修痕が判らないレベルに仕上がることが解る。DIYで苦戦するより短時間で補修可能だ。

このレベルの仕上りが得られる補修でも、プロセスはほぼ同一で以下に示す手順となる。単純な工程であるが故に熟練の技が冴えることになる。

①穴周辺のクロスを剥がし、石膏ボードを露出させる

②石膏ボードの破損部の毛羽立ち部を取り除く

③補修テープを貼る

④パテを塗って乾燥させる

⑤パテの表面をサンドペーパーで平らにする

⑥クロスを貼る

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優れた専門家の探し方

優れた専門家の探し方

大工さんと懇意にしているのなら、大工さんに紹介を依頼するのも一方だ。業界からの紹介であれば、手抜きはしない。ただ、だれもがその伝手を持っているわけではないので、優れた専門家の探し方のポイントを紹介する。

見積書の記載事項の書き方とは?

良心的かつ優れた技能を有する専門家であれば、見積を依頼先に提出しないで作業には着手することは無い。また、見積も、“室内間仕切り壁穴修理一式”的な記載はしない。工程別、材料別に単価・数量と金額を記載してくれる。

専門家に依頼する際には相見積を行い、優れた業者を探す方も多いが、数社から見積を獲得した際に、記載事項として、工程別・材料別に単価・数量を明記の上に金額を書き記す様に依頼し、出張費や廃材処理費(産廃費)等のその他の費用も記入も忘れなく。

見積への記載事項を統一することで見積の比較が容易になる。記載された各項目の単価や数量に対する質問が行いやすくなり、妥当性の判断が簡便に行える。この手間に難色を示す施工会社は、その時点で選外とすべきだ。

また、価格が安すぎる業者は技術が劣る可能性もある為、注意していただきたい。

実績の確認は必須

優れた専門家であれば過去の修理の記録を残している。着手前後の様子を写真や動画としているのは、営業ツールとしての役割と自分の誇るべき仕事として多くの人に見てもらいたいという欲求だ。従って、自分の実績を見せたがらない専門家は選考の対象外だ。

コンタクト前の事前調査ではHPの閲覧で候補を探すだろう。その際に施工実績の有無に注意して欲しい。実績欄の有無と充実度がポイントで、ダメージの種類ごとに補修の実績が閲覧できるなら候補となる。

提案の有無が明暗を分ける

実直で仕上り具合に拘る職人肌の専門家も捨て難い。だが、依頼側も費用と時間を掛けるので、費用・仕上り・納期に関して、専門家として提案を期待した。例えば、工程の変更でコストダウンと納期の短縮が可能、部材の変更で同一価格でも高級感が得られる、等だ。

依頼側は言うなれば壁の補修に関して素人なので、専門家としての知見を活かしたアドバイスが欲しい。そこで、提案と言う形で助言してくれ専門家が、優れた専門家と言うことができる。要は、提案という形で依頼者に付加価値を還元してくれる専門家を選択すべきだ。

専門家に依頼した場合の費用の概略

穴の補修には、比較的安価な材料が使用されるので、作業に要する時間に関連する。特殊な材料や工程を要さないのであれば、10cm程度の穴の補修であれば2-3万円、30cm程度の穴であれば5万円程度の費用となる。

火災保険で修復は可能か?

火災保険で修復は可能か?

壁の補修をDIYで行うと数千円のレベルで可能だ。だか、専門家に依頼すると、数万円-十万円に達する場合もある。この費用を補填する手立ては、あるのだろうか?実は、入居の際に進められる火災保険で補填の可能性がある。

入居時に加入した火災保険をチェックしよう

賃貸物件入居の際に、家財に対する火災保険への加入を強く勧められた経験を有する人は多数いるだろう。物件自体の火災保険はオーナーが加入しているので、賃借人の私物である家財のリスクヘッジは賃借人自身で行うことになる。

リスクヘッジを火災保険と言う手段で行っている場合、後述する特約付きで加入していることがある。自分が加入している火災保険の適用範囲を正確に把握している人は稀な部類なので、ハプニングが生じた場合には火災保険の適用範囲を確認することが必要だ。

火災保険の適用範囲とは?

一般的に火災保険は火事による被災に対する補償というイメージを持つ人が多いが、実は、火災以外の「不測かつ突発的な事故」や「自然災害」も適用内としている。例えば、落雷によるTVやPCの故障、自動車が跳ね上げた石を起因とする窓ガラスの破損等も特約無しで適用範囲内としている。

内壁であれば、家具を運んでいた際にぶつけてしまい穴が開いたなども「不測かつ突発的な事故」の対象となる。

火災保険には、災害や事故の種類を選択的にオリジナルの火災保険に組込む特約と言うオプションの制度がある。オプションに示されている災害や事故を選択することで、自分の意識するリスク対策が可能となる。

ただ、地震や津波、火山噴火等による災害は、火災保険ではカバーしない。これらは、地震保険として火災保険に付帯される仕組みとなっている。また、原子力施設の事故に伴う災害も火災保険では対象外だ。

特約でカバー可能だ

様々なリスクに対応できるよう特約は用意されているが、賃借人として採用したい特約を以下に示す。特に③修理費用保険であれば、壁等の修理費用の補填が可能となるので、火災保険の特約として組込むことをお勧めする

①借家人賠償責任保険

物件所有者に対する法律上の損害賠償責任の補償

②個人賠償責任保険

他人のものを破損、他人に怪我をさせたときの法律上の損害賠償責任を補償

③修理費用保険

借りている物件のドアや窓ガラス等を修理した際の修理費用を補償

また、水漏れ事故で室内や階下の部屋に損害を与える可能性を考慮すると①借家人賠償責任保険も組込む価値がある。いずれにしろ、特約の適用範囲を保険会社に尋ねて正確に把握することが必要だ。

尚、保険活用で補修を行いたい場合は、保険申請の実績ある補修業者に依頼することをおすすめする。保険会社が納得する資料は、どのような業者でも作成できるわけではない。必要な情報(現地調査報告書、見積書)を適切に記載しなければならない。

まとめ

まとめ

何気ない動作で壁に穴を開けることがある。下手に手を出すと周辺部との違いが際立ち収集がつかなくなることがある為、専門家に修理を依頼することを基本とすべきだ。

また、損傷を放置するとダメージが拡大して余計費用を要することがあるので遅滞なく修理しよう。

その際に、施工会社の選定等で不安感を抱くだろうが、本稿が指針を与えてくれるので、熟読することをお勧めする。

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【記事監修】 山田博保

株式会社アーキバンク代表取締役/一級建築士

一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。

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