屋根は常に移り変わる日本の四季の影響を一年中受け続けているため、強固かつ耐久性の高い素材が使用されているのが一般的である。しかし、そうした強い素材をもってしても、経年劣化の影響は避けることはできない。どの屋根でも定期的なメンテナンスは必須のことなのだ。
時に屋根塗装の塗り替えではなく、屋根材の葺き替えが必要となることがある。今回の記事では、そうした屋根材の葺き替えが必要となる例を取り上げ、どのように考えていけばお得に、損なく屋根葺き替え工事ができるのかを解説する。
この記事読むことで理解できること
屋根葺き替えの概算工事費用は?
屋根葺き替え工事においては、概ね90~270万円程度の費用が発生する。通常の感覚からすれば決して安価ではない。もちろん概算の数値であって、その屋根の置かれている状況や劣化具合、屋根面積などと言った諸条件で大きく増減することがあるため、参考程度に考えておいて頂きたい。
様々な条件により工事費用は増減するわけだが、どういう条件で工事費用が増減するのか、と言った部分の詳細については後程の「ポイント3」において語ることになる。気を付けておいていただきたいのは、提示された金額が適正かどうかを見抜くことができるかどうかである。そのためには、屋根材ごとのおおよその工事金額の相場を把握する必要があるだろうし、屋根材ごとにどのような場合に葺き替え工事が必要となるのか、正しい理解が必要となるだろう。
屋根葺き替え工事でよくある失敗例としては、屋根葺き替え工事を検討する際に、専門業者一社からしか見積を取得せず、比較検討をほとんどすることなく最初に見積を取得した業者に依頼してしまうことである。
このような発注方式だと、提出された見積の金額が適正なのかどうか、素人目には一切判断がつかない。仮にその業者が悪徳業者だった場合、価格交渉をしようにも、比較対象となる金額や相場もわからない状態だと、交渉は難航することが目に見えている。複数の専門業者の見積を比較するということは、このように比較検討する材料を複数集め、適正な工事価格と価格相場を知ることができるという点で、是非実行して頂きたい手法である。
ポイント1「屋根の葺き替え工事を知る」
まず、屋根の葺き替え工事を行う上での最初の心構えとして「屋根の葺き替え工事がどういうものか知る」ということが必要となる。「専門業者に全てお任せ」ではなく、発注する側としても、ある程度の知識を持っていることは必須である。知識が備わっていなければ、提出された見積や工事概要が果たして正しいのか間違っているのか、と言った根本の部分が判断できない。
つまりその時点で、「業者の言いなり」になってしまうのだ。もちろん全て自分が施工できるくらいの専門知識を身に着ける必要はないが、自己防衛の手段として基礎的な知識は最低でも身に着けておこう。
屋根葺き替え工事の工法
ここでは、屋根葺き替え工事の工法を紹介する。カバー工法との違いは後述のポイント4で詳しく解説することとなるが、屋根の葺き替えとは簡単に言うと元々の屋根材を撤去した後に、新しい屋根材を施工することである。
葺き替え前の屋根材と同じ屋根材を再び施工する場合もあれば、施工前とは違う屋根材を葺き替えするケースもある。どういう屋根材を選択するのかは屋根材の置かれた状況や劣化状況、施工コストや耐震性などの要素を加味して決定される。
もちろん、意匠などの面で、「こういう屋根材に変更したい」という要望があれば、施工の前に必ず担当者に伝えてみよう。葺き替え工事の場合は、特に特殊な事情などがない限りは「どの屋根材を使わなければならない」という決まりはないため、施工後の屋根材を自由に選べるのが一つの特長であると言える。
今回は、昔ながらの日本瓦の屋根から、近年特に高性能な屋根材として注目を浴び始めた金属製屋根(ガルバリウム鋼板)への葺き替えを例にとって見てみよう。
ステップ1:既存屋根材および葺き土の撤去
屋根の葺き替え工事は、既に施工されている屋根材を撤去することから始まる。日本瓦の葺き替えを行う場合、一つ一つの瓦が非常に重量のあるものであるため、撤去・運搬の作業は下地材や各部材を傷つけてしまわないように慎重に行われる。
また、日本瓦の屋根の場合は瓦の下に「葺き土」と呼ばれる、瓦と下地板を固定しておくための粘土が敷かれているケースがあるため、この葺き土も瓦と同様に撤去する必要がある。ただし、この葺き土を使った瓦屋根の施工方法は、「土葺き工法」というが、最近はあまり見かけなくなってきた工法である。瓦を釘等で留めない工法であるため、経年と共に粘土が劣化し、瓦自体が屋根から滑り落ちてしまうリスクがあるためである。近年ではこの葺き土を使った施工方法ではなく、「引掛け桟瓦葺き工法」が主流である。この工法は、瓦の下に敷く木材に瓦を釘で固定する工法のため、ずり落ちのリスクが少ない工法として日本瓦の施工の際の工法として定着している。
こうした屋根材や葺き土の撤去作業を行う前段階として、足場を架設して安全を確保してから施工を開始することを決して忘れてはならない。屋根という場所は多くの場合で傾斜があり、作業中に拠り所にできる場所もそこまで多くないため、足場などが特にない状態だと落下などの危険性がかなりの高レベルで予想してしまう。高い屋根から職人が足を滑らせて落下した場合は、最悪の場合死に至る可能性もある。そのくらい、屋根の葺き替え工事は高所作業で危険と隣り合わせなのだ。
また、屋根の上での作業中に工具などの物や、撤去後の屋根材などを誤って落としてしまうリスクも当然考えられる。住宅の屋根はビルやマンションの屋根と比べて低い位置にあるとは言え、それでも重い物を落としてしまうと極めて危険である。下にいる人や車に当たってしまうと、大事故につながる危険性もあるのだ。
「注意してやっているから、そんなことはあまり起こらないだろう」などと思われるかもしれない。しかし、実際の工事現場では、地面と比べても圧倒的に不安定な足場で、様々な気象条件・環境の下で作業が進められる。こうした状況下で、スーパーマンでもない普通の人間である職人が「ノーミスで作業を完了できる」ことの方が稀だと言うことを肝に銘じておこう。
上記のような理由から、高所での作業をする上で足場の架設は必須である。このことは、しっかりと押さえておいて頂きたい。
ステップ2:下地板の腐食状況確認および劣化部分の補強
瓦や葺き土を撤去すると、下地に敷かれていた板が露出することとなる。何らかの瓦屋根の不具合や、風や雨などの影響により瓦屋根がずれていたりすると少しずつ雨水が下地板に漏れてきていることがあり、そのような状況だと下地板の腐食が進行しているケースも考えられる。
そうした腐食や劣化が所見された箇所については、腐食部分を切断・撤去の上、野地板を重ね貼りしたりして補修を行う。腐食したまま放置しておくと、屋根材のずれや漏水の原因ともなるため、この工程は非常に重要な作業である。腐食や劣化を放置したまま新しい屋根材を施工してしまうと、もはや目視で確認する術はなくなってしまう。数年経ったあとに、木材の腐食により屋根材がずれてきたりずれてきたりしたことに気付いても、もはや遅いのだ。
ステップ3:ルーフィングの施工
ステップ2の段階で下地の木材を補修しても、まだ屋根材を施工する段階ではない、金属製屋根であるガルバリウム鋼板を葺く場合は、下葺き材としてルーフィングを施工しなければならない。
このルーフィングは、改質アスファルト層や特殊合成樹脂フィルムなどの素材を貼り合わせて作られた防水用のシートである。これを屋根全体に隙間なく施工することによって、一旦は水の室内への侵入を防ぐことが可能となる。極端な話だが、このルーフィングを施工してしまえば、屋根の防水性能は一応は確保されたものと思っても良い。したがって、この工程までの作業については雨が降らない間に速やかに実施することが望ましい。このルーフィングを施工してしまえば、仕上げ材であるガルバリウム鋼板の施工までの間に雨が降ってきても室内に雨漏りをするという心配はさほどないと思われる。
ステップ4:仕上げ材の施工
ステップ3でルーフィングを施工した後は、仕上げ材のガルバリウム鋼板を貼っていく作業となる。こちらもルーフィングの場合と同じように、屋根全体に隙間なく貼っていく。
ガルバリウム鋼板は「耐久年数が長く、塗装も不要、メンテナンスフリー」などという営業トークが存在するが、どのような屋根材でも一定年数ごとに塗り替えなどの定期的なメンテナンスは必要不可欠であるし、そもそも金属製の屋根であり、かつ様々な気象条件の変化に24時間365日さらされ続けている屋根というものの特性上、メンテナンスフリーの屋根材などは存在しないと思われる。ただし、気を付けておいていただきたいのは、未熟な職人の施工により、屋根材の劣化を促進してしまう危険性があると言うことだ。
ガルバリウム鋼板は近年になって急速に普及され始めた屋根材なだけに、しっかりとした知識や経験に基づく施工をすることができない職人が多いと言うのが実情である、したがって、専門業者への見積取得の際には、必ずそうしたガルバリウム鋼板ないしは金属製屋根の施工に関する施工実績・知識などというものをヒアリングしておくと良い。こうした過程を怠り、ただ提示された金額が安いからという理由で業者を選定するのは危険な行為である。「手の悪い」業者に依頼してしまうと、メンテナンスの周期を早めてしまうだけではなく、室内への雨漏りという最悪な結果に繋がってしまうこともあるのだ。
ガルバリウム鋼板などの金属製屋根材の劣化を促進してしまう原因の一つとして、施工中についた傷などが挙げられる。工具などによる掻き傷などの他、釘からの貰い錆などがあると、年月の経過とともに屋根材の防水機能を損なってしまう。こうなると、補修やメンテナンスを前倒しで行わざるを得ない状況となるのだ。
ステップ5:棟板金の施工
最後の工程として、三角屋根の頂点部分などに設置する棟板金を設置していく作業となる。この棟板金部分は、屋根が防水機能を充分に発揮するのかどうかを左右する極めて重要な部位である。
棟板金は施工の際に釘などで屋根材にしっかりと固定される。しかしながら、建築から年月が経過すると、大雨の影響や台風などにより衝撃を受けることによって、釘が飛んだり、徐々に棟板金が浮いてくることもあるのだ。そうなると、浮きの所見された部位から室内に水漏れしてしまうリスクが高まってしまう。
また、経年による錆の進行も問題である。錆の進行は金属に穴を開けてしまったり、浮きの原因になったりしてしまう。そうならないためにも、早めのメンテナンスが必要になるのと共に、施工の際はこの棟板金部分の施工がしっかりとされているのかを、可能であれば目視でチェックすることを強くおすすめする。
葺き替え工事中は足場が架設されており、屋根の状況を見渡すことができる格好のチャンスである。普段はほとんど目に触れることのできない箇所を目視で確認することによって、部位や部材の役割や名称を覚えることができる。職人や業者を話しをする中で「もっとこうしてほしい」という要望も生まれやすいだろうし、そのようなコミュニケーションは、工事品質を向上させるためには必要不可欠のものであると考えられるのだ。
屋根葺き替えによる耐用年数
屋根の補修を行う際、また補修を行った後も知っておきたい耐用年数についてお伝えする。
・スレート屋根
カラーベスト・コロニアル
耐用年数:15~25年 メンテナンス目安時期:7~8年
・日本瓦屋根
耐用年数:50~100年 メンテナンス目安時期:20~30年
・金属製屋根
トタン
耐用年数:10~20年 メンテナンス目安時期:10~15年
ガルバニウム
耐用年数:20~30年 メンテナンス目安時期:20~30年
・防水シート
耐用年数:20~30年 メンテナンス目安時期:20~30年
・下地
耐用年数:20~30年 メンテナンス目安時期:20~30年
屋根葺き替えにかかる工事日数
続いては屋根葺き替え工事にかかる日数を解説する。
屋根工事にどれだけの日数がかかるかを決める要因は下記である。
・屋根の大きさ…大きい程日程はかかる
・屋根の形…寄棟は切妻よりも日数が長くなる
・屋根の勾配…勾配が強い程日数はかかる
・屋根の劣化状況…下地が酷く痛んでいる場合は日数がかかる
・現場の状況…足場の組み立てやすさ、駐車できる場所の有無で日数も変動する
一般的に多い80㎡の切妻屋根で日数を見てみると下記となる。
もちろん先にお伝えした現場の状況等で変動はあるので目安として見ていただきたい。
・足場組み…一日
・既存屋根撤去…一日
・下地補修…一日
・防水シート貼り…半日
・新規屋根施工…二日
・最終確認/足場解体/清掃…半日
全工程から約1週間はかかると思っておいた方が良い。
もちろん天候によっても変動してしまうので、その面も含めて施工会社にスケジュールは共有しておきたい。
ポイント2「屋根葺き替え工事の時期の見極め方」
屋根の葺き替え工事をどのような工程に沿って進めるべきなのか、また、各工程での注意事項などが理解できたところで、屋根葺き替え工事の施工時期をいつ、どのように決めるべきなのかを素材別に考えてみよう。なぜ素材別に施工時期時期の見極め方が異なるのかと言えば、スレートや日本瓦、金属屋根等の屋根材はそれぞれ耐久年数も違えば原材料となっており素材も異なっている。当然、劣化の進行度合いに関して発するシグナルも異なるし、それに対する考え方も違うという訳だ。
大して劣化が進行しておらず、葺き替えの必要がほとんどないのに無理に新しい屋根材に葺き替える必要はないし、逆に適切な葺き替え時期を逃してしまうのも問題である。適切な時期に適切な方法で屋根葺き替えを行うことによって、屋根の状態を常に良好な状態に保ち、本来の機能を100%発揮できるようにしておくことが肝要である。
スレートの場合(カラーベスト・コロニアル)
スレートとは、別名「カラーベスト」や「コロニアル」と呼ばれることもある屋根材で、硬質なセメントを用いて作られたものである。「カラーベスト」と呼ばれることからも、最近発売されている製品は豊富なカラーバリュエーションから選べるのが特長であり、家の意匠を考える上で、選択肢が広いのが特徴である。
兆候①:スレート自体にひび割れが所見される
スレート自体にひび割れが多数所見される場合は、葺き替えを検討すべき時期にきていると言える。そもそも、なぜスレートにひび割れが所見されるのか、その原因は何なのだろうか?いくら風雨に長時間さらされているとは言え、物理的な衝撃を頻繁に受けるものではないはずである。
スレートがひび割れる主原因は、長い時間をかけてスレートが水分を含むようになってしまうからである。そのメカニズムを説明しよう。
本来であればスレートは防水処理を施されているため、施工直後は雨や雪などの水分をそれ自体に含むということはまずない。しかしながら、長期間外部の厳しい自然環境にさらされるうちに、その防水処理が少しずつ落ちていき、スレートの内部に水を貯めこむようになるのである。こうなると、朝晩の寒暖差や夏と冬の温度差によってスレートに含まれた水分が膨張し、スレートにひび割れができると言う訳である。
身近な例で考えると、水道管の破裂が最も理解しやすいだろう。水は液体でいるうちは体積が一定であり、安定した物質である。しかしながら冬季に冷え切った朝などで、破裂した水道管を見たことはあるだろう。少なくとも水道管の破裂によって、何らかの形で影響を被った経験は一度はあるのではないか。これは、水道管内部の水が温度低下によって氷に代わることで体積が増加し、水道管を物理的に破壊してしまったため起こった現象である。それと同じことがスレート内部で起こることにより、ひび割れが発生する。つまり、スレート内部に蓄積された水分が朝晩の寒暖差などで凍結・融解を繰り返すうちにスレート自体も伸縮してしまうのである。
兆候②:スレートにカビやコケが生えている
兆候①で述べたのとほぼ同じ理由により、スレートにカビやコケが生えてくると、それは葺き替え時期に来ていることを指している。では、なぜ屋根材自体に損傷が所見されないのに、たかがコケやカビだけで葺き替えを検討しなければならないのだろうか?
コケやカビが生える状況を想定して頂きたい。乾燥していて、水分のない場所などにコケやカビは生えないはずだ。どちらかというとジメジメしていて、ずっと雨が降っている時などにコケやカビが生えてくるのではないだろうか。
経年劣化によりスレート表面の防水処理が剥がれ落ちていくと、スレートに雨水を含むようになる。つまり、カビやコケが生えると言うことは、既にスレートに水分が少なからず含まれてしまっている状況があると言うシグナルだと考えると良い。そのまま放置していると、遅かれ早かれスレートの割れやひびに繋がるものであると認識するべきである。
兆候③:チョーキングが見られる
チョーキング現象も、スレートの劣化を見極める上では見落としてはならないサインである。そもそもチョーキング現象とは別名「白亜化現象」とも言われ、屋根材表面に白い粉のないようなものが付着している状態のことを言う。
施工当初のスレート表面には「塗膜」と呼ばれる合成樹脂の膜があり、この塗膜がスレートを雨や雪、紫外線などの外的な影響から保護してくれている。ところが、長期間紫外線にあたったり風雨にさらされることにより、この塗膜は少しずつ分解され、劣化していく。塗膜が劣化すると徐々に屋根材の色を出すために用いられていた「顔料」と呼ばれる成分がむき出しになり、これも紫外線や風雨の影響で劣化することにより粉のようになるため、チョーキング現象が発生してしまうのだ。
正確には、チョーキング現象が所見されたからと言って直ちに葺き替えをしなければならない兆候とは言えないものの、「徐々に劣化が進行している」ということを認識するためのサインとしては、見逃してはならないと言える。
悪徳業者の中には、チョーキング現象が見られたからと言って直ちに屋根の葺き替えや塗り替えを迫るケースもあるようだが、そこまで急ぐこともないことは理解しておいていただきたい。あくまで劣化の兆候として、より今後の動向を注視し、葺き替えや塗り替えのための情報収集を始めたり、専門家に相談してみるなどの準備を着々と進めておくと、いざ劣化が進行して次の「割れ」などの段階に移行したときに、焦ることなく適切な処置を行うことができるだろう。
兆候④:葺き替えや新築から15年以上特にメンテナンスをしていない
スレートの寿命は約20~25年程度であると言われている。しかしながらこれは、メンテナンスを一切していない状態で20~25年も性能を維持し続けるということを意味しない。やはり屋根材は定期的なメンテナンスを行ってこそ、本来の性能を長期間に渡って維持をすることが可能になるのだ。
葺き替えや新築から15年以上特にメンテナンスをしていない状態だと、正直に言って、今すぐにでも雨漏りが起こってもおかしくない状況にまで発展している可能性がある。思い当たる方は、速やかに専門業者に相談し、屋根材の劣化状況を調査してもらう必要がある。理解しておいていただきたいのは、その年数までメンテナンスをせずに放置をしている状態では「今雨漏りが起こっていないので大丈夫」という考えを持つのではなく、「今起こっていなくても、明日にでも、あるいは1時間後にでも雨漏りが起こり始めるかもしれない」という危機感を持って頂く必要があるということである。
日本瓦の場合
日本瓦の原材料は主に粘土であり、この粘土を高温で焼き上げたのが日本瓦である。日本古来から使われている屋根材の一つであり、その耐久性の高さと強度の高さにより、長年にわたって親しまれている屋根材である。また、専ら和風建築に使用されるというイメージが付き物だが、近年は様々な種類・カラーバリュエーションの瓦が登場し、洋風建築にも盛んに取り入れられるようになっている。意匠を意識した住宅などではいまだに根強い人気があることでも知られている。
兆候①:瓦の割れや欠け
瓦自体に割れや欠けが所見され始めたら、それは葺き替えの目安であると言っていいだろう。割れたり欠けたりした部分から雨水が侵入し、最悪の場合部屋内へ雨漏りするケースも考えられるため、注意が必要である。
瓦が割れてしまったり欠けてしまったりする主な原因としては、飛来物の衝突はもちろん、経年劣化によるものも考えられる。スレートの場合と同様に、瓦屋根自体が劣化してしまい、内側に水分を含むようになってしまうと、その水分が気温の高低差によって膨張・収縮し、瓦屋根にも割れや欠けを引き起こしてしまうためである。
兆候②:漆喰にカビやコケや割れ
瓦屋根の場合は、瓦の固定に漆喰が使用される。漆喰は消石灰を主原料としたものであり、レンガや瓦などの建材同士をつなげる接着剤の役割を果たしてくれるものである。
瓦自体は前述したように強度が非常に強く、50年、時には100年以上も耐久性能があると言われる屋根材であるが、その接着に使われる漆喰に関して言えば、10年程度の頻度で定期的なメンテナンスをかけていかなければ、劣化が進行してしまうこととなる。
漆喰が劣化してしまうと、瓦と瓦を繋げる接着剤の働きが弱まるため、瓦同士の固着力の低下につながる。つまり、瓦のズレなどが発生しやすくなり、そのことは、雨漏りの原因ともなってしまうのだ。カビやコケの発生は、漆喰の劣化を読み取るためのシグナルの一つと言えるため注意深く観察するとともに、もしカビやコケや割れが発見されたならば、速やかに専門業者に相談することを勧める。
兆候③:瓦の浮き、ズレ、剥がれ
瓦自体が相互に固着しておらず、一つ一つがずれている状況となった場合は、かなり劣化が進行していると見ていいだろう。
屋根材に瓦を選択する方は、よく「100年以上持つ屋根材」などの触れ込みで選択する場合があるようだが、確かに瓦自体は耐久年数が長くとも、前述の漆喰のように瓦以外の建材が劣化してしまうという点は、意外と見落とされがちである。屋根のメンテナンスとは、屋根材自体のメンテナンスも含め、屋根の上に載っている全ての建材の劣化状況を見ながら進めていくものである。屋根材だけを見ていたのでは、手遅れになってしまうかもしれない。
瓦に浮きズレや剥がれが所見されるということは、瓦の下に施工されている「葺き土」が既に劣化しており、固着力を失っている可能性が高い。こうなると、瓦自体の交換では手に負えない可能性があるため、葺き替えを本格的に検討する時期に来ていると見ていいだろう。
金属製屋根の場合(トタン・ガルバニウム)
金属製屋根は瓦やスレートと比較しても軽量な屋根材で、耐震性に優れた屋根材としてこちらも人気が高い。比較的安価であり、ガルバリウム鋼板のように耐久性に優れたものもあるため、手軽に高性能な屋根材を選択したい方にとっては重宝される屋根材と言えるだろう。
兆候①:屋根材に浮きが見られる
金属製屋根は、固定されている金具が雨や風などの影響により緩んだり外れてしまったりすることがある。こうなると、屋根材自体が浮き上がってしまう。浮き上がった箇所から雨水が侵入することもあるため、こうした兆候を発見したらなるべく早めに補修を行うことをお勧めする。早めに対処することで、傷口が広まる前に、ひいては施工金額が高額になる前に処置を行うことができる。また、浮き上がりがあまりにも激しい場合は葺き替えも検討すると良いだろう。
兆候②:金属部分に錆や腐食が見られる
ガルバリウム鋼板などの金属屋根は、耐用年数が30年以上と言われている物もあることから、一般的に非常に耐久性が高い屋根材であると言われている。しかしながら、「絶対に錆びない金属は存在しない」のである。特に海沿いなどで塩害が想定されるような地域や、工業地域などの酸性雨の発生が懸念されるような地域では、腐食が発生したり錆が発生したりする年数が早くなると言われている。
こうした事情を加味しつつ、金属屋根に腐食や錆が発生し、それが極めて進行しているようなら、葺き替えを検討する時期に来ているのだと言えるだろう。特に、耐用年数が長いということを信用して、一度も塗り替え工事などのメンテナンスをしてこなかったという場合には要注意である。「メンテナンスフリーの屋根材」という営業トークが一部の業者の間で使われているようだが、適切なメンテナンスを怠っては、屋根材の性能を長期間にわたって維持していくことはできないのである。
ポイント3「工費費用を屋根の素材ごとにチェック」
葺き替え工事の工法や、屋根素材ごとの葺き替え工事施工の兆候が理解出来たら、やはり一番気になるのは工事費用なのではないだろうか。屋根葺き替え工事にかかる費用はその屋根の置かれた状況や素材等によって大きく異なるのが実情である。
また、もともとの屋根の素材を撤去して新しい屋根材に貼り替えを行うのが屋根の葺き替え工事であるため、当然のことながら、葺き替え後の屋根材をどのような素材にするのかということでも費用は変わってくる。したがって、本項に記載するのはあくまでも一例であるということに注意頂きたい。
葺き替え前 | 葺き替え後 | 特徴 | 費用相場 |
スレート | ガルバリウム鋼板 | 耐用年数〇(30年) 加工が容易 断熱性に難点 | 90~180万円 |
日本瓦 | ガルバリウム鋼板 | 同上 | 150~240万円 |
日本瓦 | スレート | カラーが豊富 耐火性〇 表面劣化によりひび割れる | 120~210万円 |
スレート | スレート | 同上 | 120~180万円 |
日本瓦 | 日本瓦 | 耐久性〇 耐用年数〇 瓦自体はメンテナンス不要 | 150~270万円 |
98㎡(30坪)程度の屋根面積の場合を想定して算出。
既存屋根の材の撤去費・足場費用相場
屋根の葺き替えは単純に新しい屋根材と施工代だけではなく、既存屋根の撤去が必要となる。既存屋根の撤去費の相場は3000円~/㎡であり、撤去した屋根材の処理にも費用は掛かる。
また、2004年以前に作られたカラーベストやコロニアルであれば、アスベストが含まれている可能性がある為、アスベスト処理申請を行い、別途費用が発生する。
続いて屋根の修繕に必要な足場については600~1500円/㎡である。
足場がどれだけの面積で必要かの計算は下記で行うことができる。
・足場にかかる費用=足場架面積×平米単価
(足場架面積=(建物の外周m+8m)×家の高さm)
一般的には1階建ては3.5m、2階建ては6mである。
防水シート値段・下地修繕費相場
傷んだ下地のままでは屋根材がしっかりと固定できない為、葺き替えにおいて重要な工程である。下地補修の費用相場は2000~3500円/㎡である。
防水シート(ルーフリング)は屋根材の下に敷くシート状の防水健材で、
防水シートの取り付け費用は500~1500円となる。
ポイント4「屋根葺き替えとは?カバー工法との違いを確認」
屋根の葺き替えとは前述したように、既存の屋根材を撤去した後に新しい屋根材を施工するものである。一方でカバー工法とは、既存の屋根材の上にガルバリウム鋼板などの金属製屋根を施工する手法である。既存の屋根材の上に新しい屋根材を重ね葺きする工法のため、既存の劣化した屋根材の撤去費用がかからないというメリットもある。
葺き替えのメリット
まずは葺き替えのメリットを見ていこう。既存の屋根材を全て撤去して、新しい屋根材を施工する、ということでそれなりのコストを要するが、やはりコストに見合うだけのメリットも多々あるのも事実である。
葺き替えのメリット①:屋根の寿命を延ばすことができる
葺き替え工事においては、屋根材はもちろん、屋根材の下に施工されていた下地材も全て撤去し、新しい部材を施工するため、単純なメンテナンスと比較しても施工からの寿命が長くなるという利点がある。
塗装の塗り替え工事やカバー工法などでは、既存の屋根材の部材を全部あるいは一部残してメンテナンスの作業を行うため、メンテナンス処置を施すとは言え劣化が進行した部材が屋根の上に残り続けることとなるため、葺き替えと比較しても寿命が短くなるというのは明白なことである。
葺き替えのメリット②:耐震性が向上する
屋根材を含め、住宅に関するありとあらゆる部材や材料、塗料に至るまで、日々刻々と進化している。つまり、程度の差はあれど性能が昔と比べても大幅に向上しているのだ。屋根においても、一昔前の屋根材と比較して近年の屋根材は軽量化がなされており、施工方法も効率化が図られる中で屋根の全体的な重量は間違いなく軽くなっている。金属製屋根から瓦屋根に変更するような場合ではむしろ屋根の重量は増してしまうかもしれないが、例えば瓦屋根をスレート屋根に変えるような場合だと、屋根の軽量化が見込める。もちろん従来のスレート屋根から最新のスレート屋根に葺き替えするような場合でも、軽量化が図られる可能性は非常に高い。屋根材が軽量になるということは、施工をより容易にするのと同時に、耐震性能が向上するということとも同義である。
地震が発生したとき、その揺れの影響を大きく受ける要因の一つとして、屋根材の重量が挙げられる。屋根材の重量が重ければ重いほど、地震の揺れの影響を受けやすく、家の揺れ幅は屋根材の重量に比例して大きくなる。逆に頭(屋根材)が軽ければ軽いほど、地震の揺れの影響をそこまで受けにくいのである。したがって軽量化された屋根材は、耐震性能の確保に大きく寄与しているということがわかる。
葺き替えのメリット③:家の意匠面が向上、あるいは外観を変えることができる
葺き替えの場合は、もともとスレートだった屋根を瓦屋根にしたり、あるいは瓦屋根をガルバリウムなどの金属製屋根にしたりすることが可能である。ということは、屋根の葺き替え工事を行うことによって外観に与える影響が大きくなるということを意味する。
屋根は外壁と同じように、家を覆う建材の中でも多くの面積を占める。つまり、外部から見た時に、家のイメージを決定づける一つの大きな要素であるということは言うまでもない。葺き替えによって屋根材を変えるということは、家の外観を大きく変えてしまうということである。したがって工事の前には、単に性能面だけではなく、外観上自分たちの好みのイメージを損なわないかどうかをしっかりと思い描く必要がある。その点の提案や問題提起がしっかりとできるかどうかも、専門業者に求められるスキルである。
カバー工法のメリット
次に、葺き替えとよく比較されることの多いカバー工法のメリットを考えてみよう。
カバー工法のメリット①:施工費用が安い
屋根下地も含めた屋根材全てを撤去して、新しい屋根材を施工する葺き替え工事に対して、既存の屋根材の上に新しい屋根材を施工するカバー工法では、既存の屋根材の撤去のための費用が発生しないため、葺き替え工事と比較しても費用が抑えられるというメリットがある。単純に工数が減るためである。
施工の予算に余裕がない場合だと、カバー工法も選択肢の一つとして検討する場合もあるのかもしれない。
カバー工法のメリット②:工期を短くできる
カバー工法は葺き替え工事と比較して既存の屋根材撤去のための作業が発生しない分、施工費用を抑えられるというメリットがあることは前述した通りである。撤去作業が無くなる分、工期についてもそれだけ短縮できるという論理である。屋根材は家の防水を語る上でなくてはならない存在である。長期間にわたって屋根材を取り外した状況が続く屋根修理の現場では、正直なところ工期は短ければ短いほど良い、というのが住んでいる人にとっても、施工業者にとっても本音なのではないだろうか。
また、カバー工法だけに限らず、葺き替え工事においても、施工の際は必ず足場の架設を必要とする。職人の安全確保を優先させるためである。足場にはカバーがかけられる場合が多く、外部からはなかなかカバーの中の様子をうかがい知ることは難しい。逆に家の中から外部を見渡すことも難しい状況となる。長い期間家の周囲に足場がかかっている状態というのは、居住にとってもあまり気持ちの良い状況とは言えない。昼間は窓の外で職人が作業をしているため、プライバシーにも気を遣わなければならない。また、足場を架設することによって、工事現場を狙った空き巣被害のリスクも無視することはできないのである。さらに、カバーがかけられている状態だと、ベランダで洗濯物を干すこともできない場合がある。
屋根修理に関する工期が長引けば長引くほど、居住者にとっての心理的・肉体的なストレスは増大していくのである。したがって、どのような工事であっても足場を架設する以上は、工期はなるべく短くするのが理想的と言えるだろう。
カバー工法について費用面や工程について詳細に解説した記事もある為、ご検討中の方は参考にしていただきたい。↓
葺き替えとカバー工法のどちらを選択するべきか
屋根の葺き替え工事とカバー工法双方のメリットを見て頂いた。一見すると、「施工費用が安く、工期も短いため手軽なのはカバー工法」という判断になりがちである。しかし、少し待っていただきたい。
屋根リフォームの手段として一度カバー工法を選択してしまうと、次回の施工時(おおむね15~20年後)には確実に葺き替えになることを考慮に入れられているだろうか?長いスパンで見たときに、葺き替え工事を選択したほうが費用が安く抑えられる場合も考えられるのだ。したがって、ただ単に「費用が安い」という理由でカバー工法を選択しようとしているなら、立ち止まって今後の家のことをじっくりと考えてみてはいかがだろうか?以下に具体的なカバー工法のデメリットをまとめた。
カバー工法のデメリット
カバー工法を選択すると、それまで数十年にわたって家の屋根を守り続けていた屋根材は新しい屋根材の下に眠ることとなる。このことのデメリットをどの程度ご理解いただけているだろうか?
カバー工法のデメリット①:既存の屋根材が抱える問題を引き継ぐ
既存の屋根材の上に新しい屋根材を施工するカバー工法では、数十年間風雨にさらされて劣化が進行した屋根材をそのまま残すということになる。スレートなどは、劣化が進行するとスレート自体に水分を含んでしまい、カビやコケの原因になることもある。また、金属製屋根の場合は錆などが発生しているケースもある。
こうした劣化が進行した状態の屋根材を新しい屋根材で覆ってしまうと、考えられる問題は何だろうか。それは、既存の屋根材に含まれる水分がいつまで経っても乾燥せず、他の下地材などの部材の劣化を促進してしまう可能性もあるわけだ。
また、アスベストの処理についても大きな課題が残る。一昔前のスレート屋根の場合は原材料にアスベストを使用している場合がある。アスベストは「石綿」とも呼ばれ、優れた断熱性能を有する素材として脚光を浴びていたが、人体への影響が指摘されており、肺がんなどの各種疾患の原因となることが実証されたため、平成16年に建材への使用が禁止されている。このアスベストが使用されたスレート屋根が、カバー工法を選択した場合では、家を構成する要素としてその後数十年間にわたり残り続けるのだ。
これは具体的な健康被害が出ずとも、精神的にも非常に大きなストレスになり得る。自らの健康を脅かしかねない建材が常にすぐ近くにあって、それがこの先屋根の葺き替え工事でもしない限り取り除くことはできないのだ。
これは大きなリスクと言える。しかも、アスベストの撤去・処分を次回の屋根葺き替え工事をする機会に先送りしてしまうと、現在も値上がりを続けるアスベストの処分費から考えても、こちらも金銭的なリスクと言えるだろう。既に露呈している懸案事項を解決するためには、問題は先送りにせず、できる時に解決しておいた方が良いのかもしれない。
カバー工法のデメリット②:耐震性が低下する
既存の屋根材がカバー工法によって家に残り続けるということは、その分だけ屋根材の重量が増加するということである。屋根材の重量が増加すると、地震への耐久性が弱まるという意見もある。これは前述したように、屋根など高い位置にある物の重量が重く(いわゆる頭でっかち)なると、大きな揺れがあった時に、揺れのエネルギ-によって家の振動幅が増加してしまい、地震の揺れの影響をより大きく受けやすくなってしまうためである。
日本は地震大国と呼ばれるように、地震災害とは切っても切れない間柄にある。東海地区や関東地区で近い将来大きな地震災害が予測されている昨今において、あえてこの先も耐震性に不安のある状態を維持し続けるということは不安以外の何物でもないのではないだろうか?できる時に屋根材を軽量化し、来るべき大規模な地震災害に備えておいた方が現実的なのではないだろうか。
カバー工法のデメリット③:トラブル発生時の修理費用・対応費用が高額に
雨漏りの場合などにおいては、どこから、どのように水が漏れているのか原因を調査した上で、特定された原因箇所を修復する流れとなる。カバー工法をしない状態でも雨漏りの原因箇所の特定には非常に大きな手間と時間が費やされるのに、既存の劣化した状態の屋根材が天井裏に残っている状態だと、原因特定により時間と手間がかかるというのは想像に難くないだろう。
また、雨漏りの原因箇所が新しく施工した屋根材にあるのか、それとも新しい屋根材の下に残っている既存の屋根材にあるのか、という、おそらく簡単には答えの出せない問題にぶつかるリスクもある。そうなった時、原因箇所の復旧により手間と時間と労力をかけてしまうことになる。さらに、例えば工事保証についても非常に複雑な問題となり得る。新しく屋根材を施工した業者に対して雨漏りの修理費用を負担するよう求めるのか、それとも元々の既存の屋根材を施工したハウスメーカーに保証を求めるのかという、難しい判断を迫られる可能性もあるかもしれない。
ポイント5「屋根葺き替えに確認申請は必要なのか?」
建物の修繕を行う際に知っておくべき事として「建築確認申請」というものがある。
「建築確認申請」とは、建てようとようとしている、又は修繕を行おうとしている建築物の内容が、法令を遵守しており、条件をクリアしているかを確認することである。
先に回答をお伝えすると、屋根葺き替えの場合は、下記の申請が必要な場面の②又は③に該当する為、建築確認申請は必要となる。
知っておくと良い、建築以外で確認申請が必要な場面を下記にお伝えする。
①増築リフォーム
増築する床面積が10㎡以上の場合。また建築物が立っている場所が「準防火地域」「防火地域」の場合は、1㎡の増築でも確認申請は必要。
②大規模修繕
建築物の構造部(壁・柱・床・梁・屋根・階段)のうち1種類以上について、2分の1以上の修繕を行う場合。
③大規模模様替え
建築物の構造部のうち、1種類以上について2分の1以上の模様替えを行う場合。
上記以外のリフォームで、例えば外壁の塗り替えや壁紙の張替え、台所の設備交換などは申請は不要である。
上記にて確認申請が必要なものをお伝えしたが、行おうとしている修繕や模様替えに申請が必要かの判断は素人の方では難しい。よって、修繕を行う前に工事会社に相談してみると良い。
「建築確認」の申請者は施工主自身であり、役所か民間の建築確認検査機関に書類を提出するところから始まる。書類の記載方法や提出方法、手数料は、各地方自治体のサイトにて確認ができる。
ポイント6「屋根工事費用の勘定科目は資本的支出?修繕費?」
屋根の工事を行うにあたり、かかった費用を経費とできるか、
または資本的支出の減価償却を通じて費用化しなければならないか、疑問を持たれる方は多い。
「修繕費」として経費か、「資本的支出」減価償却か、
どちらであるかの見極め方は工事内容である。まずはそれぞれに該当するケースをお伝えする。
■「修繕費」となる場合
耐用年数が既に寿命を迎えており、それによる雨漏り被害などの解決が、
葺き替えやカバー工法でしか対処できずに工事を行った場合。
■「資本的支出」となる場合
一言で言うと、屋根のグレードアップが行われた場合である。
例えば、雨漏りなどが起きていても、その損傷部分のみの修復で雨漏りが解決出来てしまうところを、
葺き替えやカバー工法で大掛かりな工事を行った場合も「資本的支出」に分類される。
続いては下記を順番に該当するか確認していただきたい。
該当した時点で、そこに記載されている勘定科目となる。
①費用が20万円未満、または3年以内の周期であれば「修繕費」である。
該当しなければ②へ進む
↓
②先述の【「資本的支出」となる場合】に該当すれば「資本的支出」
該当しなければ③へ進む
↓
③費用が60万円未満または前期取得価額の10%以下であれば「修繕費」
該当しなければ④へ進む
↓
④費用の30%未満または前期末取得価額の10%が
小さい金額→「修繕費」
大きい金額→「資本的支出」
まとめると、【「資本的支出」となる場合】の内容に該当せず、費用が60万円未満であれば「修繕費」で問題はないことが多いが、金額が大きい場合は念の為に税務署に確認することをおすすめする。
ポイント7「工事の自己負担金額を火災保険で減らす方法」
屋根の葺き替え工事は前述したように決して安価な工事ではない。しかしながら、新しい屋根材に葺き替えることによって雨漏りや各種不具合の心配から一旦は解放されるし、新しいデザインの屋根材はその家に住む人の気持ちを新たにしてくれるものである。こうした屋根葺き替えについては、工事施工後も数十年間にわたりその屋根の下で生活していくという面からも、一分の落ち度もない完璧な施工品質を求める反面、やはり心のどこかでは「可能な限り安く発注したい」というのが本音なのではないだろうか?
安く発注したいがために、複数社から相見積を取得するまでは良いが、複数社の中から値段だけを見て発注するのもリスキーな方法である。施工品質が保証されないからである。かと言って施工品質を求めれば施工金額は上がるはずなので、誰もがこのジレンマに苦しむのは当然のことのように思われる。
ここで、火災保険の登場となるわけである。突然だが、火災保険証券に何が書かれているか、どのような事故の場合に火災保険金が支払われるのか、この記事を読まれている方はどの程度ご存知だろうか?「火事になって家が燃えた時に保険金がもらえる」ということや、「地震が発生して建物が倒壊したときに保険金が受け取れる」と言うまでの認識なのではないだろうか。今日以降、その認識は改めて頂きたい。
火災保険は何を補償してくれるのか?
では、火災保険は一体何を補償してくれるのだろうか?そのことは、「火災保険証券」に全て記載されている。この先、あなたの家に起こった災害や事故が、この火災保険証券に記載されていることをどの程度知っているかによって、補償されるのかどうか、保険金が受け取れるのかどうかが決まる。要するに、保険金を受け取りながら賢く家をメンテナンスしていくことができる人とそうでない人との違いは、「自分の家の火災保険証券に何が書いているのか」を知っているか知っていないか、ただそれだけの違いである。
火災
「火災保険」という名称なのだから、これは当然のことである。家が火事で燃えたり、天ぷら油を熱し過ぎてしまったためにキッチンの壁面の一部分を燃やしてしまった場合などに保険金が支払われる。これは基本中の基本の保障内容である。この保障が付いていない火災保険は日本中を探してもないと思われる。
落雷
落雷による建物の破損や損傷に対して保険金が支払われる。落雷で家が破損するなどということはレアケースなどと思われるかもしれないが、実は屋根や建物の外壁に雷が落ちるということはそんなに珍しいことではない。特に梅雨時の雨が降り続く季節や、台風の上陸が頻繁に起こる初夏~秋にかけての季節などでは、頻繁に落雷が観測される。建物に雷が落ちると屋根材や外壁材に被害が出る場合があるため、その場合は保険金を使ってしっかりと修理を行おう。
風災・雹災・雪災
「台風により瓦が飛んだ」「雹が降ってきて屋根に穴が開いた」「雪の重みで屋根が凹んだ」と言った状況では、この要件により火災保険金を受け取ることができる。と言っても、これだけを聞いたのでは多くの人は「風災と言っても、記録的な超大型台風で大部分の瓦が飛んだとか、そのレベルでないと申請できないのでは?」などと思われているかもしれない。しかし、台風でなくとも風災は風災である。一定以上の強い風が吹いた時に屋根が傷んでしまったり、飛来物により損傷してしまったりするケースは当然考えられる。そうした場合で火災保険を利用して修理することは何ら問題のない、保険加入者が持っている当然の権利である。
火災保険を賢く使って屋根葺き替え工事を
実は家主が経年劣化と思っていることでも、保険鑑定人や専門業者が判断すると経年劣化ではなく自然現象による損傷だというケースは意外と多くある。そのような自己判断で本来使えるはずの火災保険が使えないのはもったいないことこの上ない。せっかく高額な保険料を払っているのだから、保険金支払い事由が発生したときには、適正に保険申請をして、保険金を正しく受け取るために行動するべきである。
屋根の葺き替え工事のケースでも同じことが言える。家主は屋根の葺き替え工事を定期的な屋根のメンテナンスと捉えているかもしれない。もちろん、定期的なメンテナンスのための費用が火災保険から支払われることは絶対にないと言ってよい。これができたとすれば、それは間違いなく保険金詐欺による果実である。そのような手段で手にした保険金には何の価値もないし、いずれその詐欺行為は発覚して、逆に多額の賠償金を迫られたり、刑法上の責任を問われるかもしれない。
しかしながら、風災による被害を受けた後、専門業者の適正な調査や保険鑑定人による損害調査の結果、風災による損害を修理する手段として客観的に見て、屋根の葺き替え工事が妥当であると判断されれば、全く問題はない。当然の権利を行使しているだけである。むしろ、賢く火災保険を使って自己負担額をゼロにして屋根の葺き替え工事を行うことができるのだ。
この部分において重要なことは、「風災による被害が火災保険の支払い対象になる」という当たり前すぎる事実を知っているか否かにより、大幅に結果は変わってくるということである。知っていれば、上述してように正当に保険金を受け取りつつ、自己負担額をゼロにした状態で屋根の葺き替え工事を行うことができる。しかし、もしその事実を知らなければ、当たり前だが保険金を受け取ることはおろか、本来は保険金を受け取れるべき事由でもすべて自己の負担により屋根の葺き替え工事を行うこととなるのだ。一度屋根の葺き替え工事を行ってしまった後に、やはり火災保険が使えるはずだったと気づいてももう遅い。もうそれを証明するものは残っていないために、一生火災保険を使う機会は失われることとなる。こんなに損な話があるだろうか。
火災保険はいくら使っても保険料が上がらない保険
自動車保険などでは「等級制度」の下、自動車事故により保険金を請求すれば、等級ダウンとなり次年度以降の保険料が上がってしまう。これは「少々の損害額では自動車保険は使わない」という状況が発生し得ることを意味する。せっかく保険に入っているのに、万が一の事故発生時に保険が使えないという状況になること自体、よもすれば保険という制度そのものに疑問を抱いてしまう人もいるかもしれない。
その点、火災保険は自動車保険とは異なる。基本的に保険期間中に保険申請をしても、次回更新時に保険料が上がるような仕組みにはなっていない。等級制度などという仕組みも存在しない。つまり、事故が発生したならば保険金を申請しない理由が見当たらないのだ。自動車保険の場合は保険金申請をした場合は次年度以降の保険料に影響するために、保険金申請をすればトータルで見ると逆に損をする場合もあるが、火災保険の場合は保険金申請をしたことによって保険料が上がることがないために、「事故があったのに保険金申請をしないのは損」ということが言えるのである。
具体的な申請方法を紹介
ここでは、自然災害により屋根が損傷した場合における保険金申請のフローをご紹介する。実際にどのように動けばいいのか、具体的なイメージをするために是非参考にしてみて欲しい。
ステップ1:屋根に損傷を発見
まずは損傷を見つけることから始めよう。実際に損傷がなければ、当然のことだが火災保険金の申請をすることはおろか、保険事故として認定すらしてもらえない。
この損傷を見つけるためのプロセスとして肝心なのは、屋根の状況を日々よく観察しておく、ということである。2階の窓などから屋根材が見れる場合はその場所から日々の違いを観察していても良いし、家の外から双眼鏡などで屋根の損傷状況をチェックしても良い。こうした取り組みを日々繰り返していると、ほんの些細な変化にも気付けるようになる。気付きが生まれてくると、自己負担額ゼロで屋根修理をするための第一歩を踏み出すことができたも同然である。
ステップ2:専門業者に相談
屋根に損傷があったからと言ってまずは保険会社に連絡する人がいるが、それは少し待っていただきたい。保険会社としては、保険金の支払い金額は極力抑えたいと考えるのが一般的である。ここで最初に保険会社に連絡してしまうと、保険金額を減額させるためのあらゆる質問をされる懸念があるため、まずは火災保険を使用した屋根修理を多く手掛けている専門業者に相談する方がより無難である。素人である契約者からすればなんでもない会話のやり取りでも、保険金額の決定に大きく影響するようなことを言ってしまうかもしれないのだ。
こうした専門業者は、保険会社への説明にどのような言葉を選べば良いのか、と言った知識を豊富に持っていることが多いため、保険会社への保険申請に当たり、具体的なアドバイスを得られる可能性が高い。また、数多くの案件をこなしてきた経験から、そもそも火災保険によって修理が可能なのかどうかの判断もある程度までは可能なケースが多いため、最初に相談するのはこうした専門業者にしておこう。
ステップ3:保険会社に連絡
ここで初めて保険会社への連絡となる。完結明瞭に、「風災により屋根が損傷したため、保険申請したい」とだけ伝えよう。そうすれば、保険金申請に必要な書類を後日郵送してもらえるはずだ。何か質問されても多くは答えず、「調査中」とだけ伝えておこう。客観的な資料を基に正確な報告をした方が、後々のためにもトラブルに発展する心配がないからである。
ステップ4:専門業者より必要書類を取得し、保険金申請書類一式を保険会社に郵送
保険金申請に必要となるのは、専門業者が作成する「現地調査報告書」と「見積書」および保険会社に保険金申請するための「保険金請求書」である。このうち、専門業者が作成する書類に関しては、保険会社が保険金の認定を行うための資料として活用するものであるため、論理的かつ客観的な資料となるよう努めなければならない。保険金を利用した屋根修理の経験が薄い専門業者の場合、保険会社を自然に納得させられる資料を作成できるかというと危うい部分があるため、ここでも火災保険を使用した屋根修理を多く手掛けている専門業者のノウハウが必要不可欠となるのだ。
ここで勘違いしてほしくないのは、事実を捻じ曲げて保険会社を欺き、保険金が支払われやすいような資料を様々な悪知恵を働かせて完成させるということでは断じてないということである。それは当然のことながら保険金詐欺であり、明らかな犯罪である。犯罪行為を推奨しているわけではない。あくまで発生している事故の状況を客観的かつ正確に報告するために、このステップが存在する。余分な情報や誤解を与えるような表現は極力使わないというのは、正確な情報を伝えるために必須のスキルである。
ステップ5:保険金の認定が出た段階で工事を開始
損傷の原因が風災などの自然災害であり、火災保険の補償範囲内である場合で、なおかつその事実を正確に報告するための資料がしっかりと作成されていれば、このステップで保険金請求が否認されるケースはそこまで多くない。保険金が支払われるという保険会社からの回答を待って初めて、専門業者に対して屋根葺き替え工事の施工を発注しよう。
例えば保険会社からの回答を待たずして見切り発車で工事を発注してしまうと、工事が始まってしまった後に保険会社に万が一保険金請求が否認されてしまったら、工事金額を全額自己負担しなければならない。もちろん屋根の葺き替え工事は長期的なスパンで見たときに必要となるものであるが、そうは言ってもかなりの出費が予想されるため、保険金により工事費用が支払われるという安心感を持って発注するようにしよう。
ステップ6:自己負担額ゼロで屋根の葺き替え工事が完了!
上記のステップにより、事故負担額ゼロで自分は一切お金を払うことなく屋根の葺き替え工事を行うことができるのである。本来であれば数十万円、場合によっては数百万円の多額の出費をしなければならないところが、一切お金がかからないとあっては、なかなか現実味もないかもしれない。保険申請というものが身近なものではなく、特に火災保険を利用して工事をするという具体的なイメージを持っていない人が多い上に、多くの人が「火災保険は家が火事に遭った時のための補償」と捉えているために、こうした手法は定着していないというのが実情である。しかし、これまでのステップをたどれば、誰でも簡単に、自己負担額ゼロにより屋根葺き替えを始めとする屋根修理工事ができてしまうのである。これまでのステップを知っており、火災保険の仕組みをほんの少し理解しているからこそ、ここまでたどり着くことができる。問題は前述したように、「ただ知っているかどうか」という一点だけなのだ。
保険会社に提出する書類がしっかりとしたものであれば、なかなか工事に際して否認されることは少ないものの、保険金請求が万一否認されたり、大幅に減額されたりした場合には、何も無理に大金を払って工事を行う義務はないため、断るという選択肢もある。ただし、多くの課題を抱えた屋根の劣化状況をいつどのように解決するかという課題は残るが、それはじっくりと時間をかけて検討していけば良い。このケースにおいては、「トライして、ダメだったら工事をしなければいい」という安心感のもとで話が進行していくことも特徴の一つであると言える。
修繕積立金/耐震改修補助金について
屋根葺き替え工事は数十万円、時には数百万円に達する場合もあるため、一般家庭にとっては痛い出費と言える。例えば分譲マンションなどには「修繕積立金」という制度があるのはご存知の方も多いのではないだろうか。
これは、区分所有者が一人一人お金を出し合って、将来発生する修繕に備えていくというものである。
この枠組みの中では、みんなでお金を出し合い、あらかじめ長期的な修繕の目安となる計画を立てておいて、定期的なメンテナンスや突発的な修繕などの出費に備えることができる。
だが、オーナーが夫一人や夫婦のみの場合がほとんどの一戸建ての場合はなかなかそうもいかない。
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また多くの自治体で耐震改修工事の補助金制度を設けている。
屋根工費に関しても「屋根の軽量化」という内容で、例えば日本瓦からガルバリウム鋼板に葺き替えるなどが対象となる。
詳細は各自治体に問い合わせて確認するのが確実であるが、気をつけていただきたい事がある。
補助金で耐震補強工事を行うには様々条件があり、通常の工事よりも時間がかかったり、スケジュールに狂いは生じやすい。内容のチェックや許可に1年近くかかったというケースもある。
これは最新の法律上に合致しておらず、合致するよう不適格な部分をまず直してから、許可に漕ぎ着けるなどである。
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火災保険を有効に活用して、非常に安価、ないしは自己負担ゼロで施工することが可能であることは、記事中で述べたとおりである。
せっかく火災保険に加入し、そう安くはない保険料を支払っているのだから、活用しなければ非常にもったいない話である。多くの家庭では、「火災保険には加入しているが、何が補償の対象となっているのか把握していない」という場合が多い。
それだけ、火災保険を利用した保険金請求に馴染みがないのだ。「掛けたら掛けっぱなし」の状況とはこのことである。
火災保険を利用した屋根修理に関する相談については、実際に火災保険を活用して修理を行った経験が豊富にある専門業者にすることを強くおすすめする。
そうすることで、実際に事故負担額ゼロにより屋根の修理を行うことができる可能性が高まる上に、あまり一般家庭では馴染みのない保険金請求に関するアドバイスをもらいながら、工事に向けた諸準備を行うことができるからである。
株式会社アーキバンク代表取締役/一級建築士
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。