時間の経過と共に家屋は損傷を受けていく。特に住居者が毎日行きかう床面は、気が付くと至る所で傷を見つけられる程のダメージを受けている。一つの傷に気づくと今まで見えていない様な傷まで見えてくる。
小まめに傷の補修を行っても、補修では対応できないレベルの損傷を受けることもある。最終的にはフローリングの張替えというリフォームに踏み切らねばならいない時が来るが、本稿で、そのときのためにリフォームで成功する秘訣を大公開する。
戸建ての方、マンションの方、どちらにも参考となるように解説しているので、ぜひご覧いただきたい。
この記事読むことで理解できること
フローリングの張替え時期の目安とは?
フローリングは、張替え時期になると自ら張替えのサインを発する。フローリングは一般的に15年―20年の耐久性と言われているが、この期間も使用状況に大きく影響されるので、フローリング自体が発するサインをキャッチすることで適切な時期を判断できる。
フローリングが発する劣化サインを知ろう
傷や汚れのないフローリングも時間の経過と共に負荷や損傷を受ける。
負荷等を受けることでフローリングは老化していくが、傷・汚れ・変色と言う表面の変化が始まる。その後、フローリングが“キシキシ”と鳴りだし、いわゆる鴬張り状態となる。
更に老化が進行すると、フローリング上を人が歩くと、本人には判らないが、歩行する人の近くにいる他人にはフローリングが沈み込む感覚を受ける。
時間の経過に連れて、歩行する人にもフローリングが沈み込む感覚が判るようになる。
フローリングは、概ね以下に示す様な段階で劣化していく。①や②の段階であれば、傷や剥がれの補修と言う表面層に手を加える局所的な修繕で対処可能だ。適切に補修できれば傷や汚れを見つけられないレベルに仕上げられる。
①床の傷・汚れ・色褪せ
↓
②床の剥がれ(表面層の剥がれ・合板の露出)
↓
➂床の軋み
↓
④床の沈み
床の軋み(③)を通り越し床の沈み現象(④)が発生すると床の下部構造に問題が生じた可能性がる。後述する床の下部構造の根太や大引きがダメージを受けて床を適正に支えることが出来ないので沈み込みが生じることになる。
特に、フローリング上を歩くと、大きく沈み込むようであれば床下がダメージを受けている可能性が高いので、フローリングの張替え時期が到来した判断して良い。この状態では早めに手を打った方が被害を抑えられる。
縁の下の力持ちである床下の状態を確認する
フローリングが人の歩行と共にキシキシと言う音を発する軋みや歩行で大きく沈み込む現象が生じたらフローリングの張替え時期だ。
だが、この現象が生じるには、表面的な問題でなく床全体の構造上の問題を抱えている可能性がある。
床の構造は後述するが、フローリング部分は、床の下部に全面で直に接している構造は少数派で、多くは床の下部から支柱や根太といわれる支持体で支えられた構造をしている。それ故、沈み込みが生じるとこの支持部に問題が生じていることになる。
また、木造の場合には、シロアリというやっかいな害虫起因で基礎部や床下部の腐食(木材が食われる)が生じる。これにより最悪家屋の倒壊と言うことがあるので、床下の状態をチェックすることは必須だ。
リフォームを実行する上での前提知識
フローリングのライフサイクルと張替え時期を明示するサインについて前述した。これは、正しい張替え時期の把握した上でフローリングの張替えリフォームに着手することが、悔いの無い工事にすることが出来るからだ。
戸建てとマンションの床構造について
フローリングの張替えというリフォームを行うには、傷の修復作業を行うのとは異なり、前提として広範囲な知見を要する。
また、床といってもフローリングだけでなく畳敷きの床もあればカーペット敷きの床がある。そこで、床そのものに対する知識が必要だ。
床及び床下は、戸建てと集合住宅(以下マンション)では異なる構造をしている。図1.に床及び床下の構造を示す。戸建てでは、床(フローリング材)は根太に釘や接着剤で固定される。
根太とフローリング材を固定するのは手間の掛かる作業だ。これは、根太に対して一枚一枚垂直に固定していく工法で、根太工法と呼ばれている。
これに対して根太の上に合板を固定した後にフローロング材を貼る工法を捨て貼り工法という。
捨て貼り工法は、フローリング材を根太上の合板に置いて固定するので作業性は向上する。また、根太とフローリング材の間に合板が存在するので、床の強度が強化されるが、合板(捨て板)より下部の状況を検査するのに手間を要する。
マンションの場合には、コンクリートの下地に直接フローリングが接する直床と下地とフローリングの間に空間を設ける二重床方式がある。
フローリング材の構造・種類
住居者と直接触合うフローリング材の構造や種類に関する知見は張替えリフォーム実施の際に必須の知識となる。コストや見栄えに直結する事項で、満足する・しないの施主の心持を左右する。
注2)無垢材
注3)複合材
注4)シート材
フローリング材は、無垢材(注2)・複合材(注3)・シート材(注4)の3種類に大別される。無垢材は乾燥させた木材を所定の寸法に切出したもので、写真に示す様に並べたときに隣同士が噛合う様に側面が加工されている。
複合材は、合板を基材として表面に突板という木目の美しい薄い板を貼り合わせたフローリング材でサイズ的にも無垢材より大きくして作業性の向上を図っている。
また、表面の突板の厚みを厚く(2mm程度)して複合材に無垢材のテイストを与えたものもある。
シート材は、主にPVC系のシート上に木目等の模様を形成したフローリング材だ。無垢材や複合材と比較して安価でメンテナンスも容易な床となる。また、断熱仕様であれば足の冷たさも大幅に軽減される。
フローリングの張替えの方法・費用・工期
フローリングの張替えは張替えに着手する前の状態に大きく影響される。出発点の違いで価格や工期に大きな相違が生じる。その点を理解していないと施工会社が提示する見積もりや工期が理解できないことになる。
フローリングの張替え方法には2種類ある
張替えの語感からフローリングの張替えと言えば、既存のフローリングを除去した後に新しいフローリングを敷き詰める方法をイメージするだろう。
だが、コストの観点から種々の工夫が凝らされており手軽に張り替える工法も存在する。
全面的に新規のフローリングを張替える方法として“新規張り”と“重ね張り”がある。また、傷や変色・腐食等の損傷を受けた部分とその周辺のみを張替える部分張替えと言う方法もある。
新規張りは、対象とする部屋の床部のフローリング材を剥がし全面的に新しいフローリング材に交換する方法をいう。この方法を採用するのは、床下の構造に問題がある場合やフローリング全面に損傷、腐食、汚染がある場合だ。
床下の構造上の問題とは、例えば、床の沈みが酷く、シロアリの寄生で大引きや根太、床束等が被害を受けている場合だ。この例では、床下から修理を行うのでフローリング部も全面的に張替えることになる。
重ね張りは、既存のフリーリング面上に新たにフローリング材を設置していく工法だ。新規張りに比較して、工数が少ない分、短工期かつ安価に施工が可能となる。ただ、既存の床に重ねるために対象外の部屋と段差が生じる。
床に軋みや沈みは無いが、部分的にフローリング面に腐食や剥がれが生じることもある。この様な場合に最適な修理法として部分張りがある。この工法は文字通り、フローリングを局所的に張替える方法だ。
張替えの対象の現況で価格と工期が決まる
施工の対象となる床の状態でフローリングの張替え工事の価格と工期が異なる。要は、施工の対象がフローリング、クッションフロア、カーペット、フロアタイル、畳等と種々の床があり補強の有無や床の高さ調整等の手間が異なる。
また、木質系のフローリング材(無垢材・複合材)は、材料や仕様によって価格が大きく異なるために、価格を確定的に述べることは難度の高いテーマであることをご理解頂けたい。種々の前提条件が存在するが、張替えに要する価格・工期の概略を以下に示す。
新規張り(8畳) 10万円-20万円 工期 2-4日
重ね張り(8畳) 8万円-18万円 工期 1-2日
部分張り 3.5万- 工期 1日
施工会社選択におけるチェックポイントとは?
張替えは専門的な技能を要する工事だ。また、専門性が必要なために施工会社であれば誰でも対応可能という訳ではない。満足にいくレベルに仕上げてもらうには発注者にも選択眼が必要だ。
決して選択してはいけない施工会社の特徴
ベストな依頼先を一発で選択することは至難の業だ。また、日頃の付き合いが無い企業の特性を僅かな期間に見抜くことは困難極まりないので、第一選抜の方法として削除法で考えよう。
選択してはいけない企業の特徴は共通しており、以下にその特徴を示す。これは、フローリングの張替え工事だけでなく、多くの分野での共通事項であるので種々の工事の際に参考にして欲しい。
①社員教育
②評判(経営姿勢・コンプライアンス)
③実績(技術・技能)
①社員教育とは、5Sと言われている整理・整頓・清掃・清潔・躾に関することある。5Sを実行していることは、従業員に対する投資の実施や経営者の気遣いがあることを意味している。
反対に、5Sが出来ていない雑然とした事務所や作業所、来客に対する挨拶ができない様な施工会社は基本的な教育がなされていないので、この施工会社は選外となる。人が中心の仕事なので人への投資は重要な事項だ。
②評判(経営姿勢・コンプライアンス)とは、外部からの評価だ。仕事への姿勢に関する口コミ、依頼者に提出すべき見積書や契約書の有無等の仕事を依頼した経験のある方の評価結果で成績表に相当する。
事務所近隣の評価で注意したいのは、事務所前での違法駐車等の有無だ。これらがマイナスの評価であればこの業者を選定することは避けた方が良い。工事の際に違法駐車を行う可能性が高い業者だ。
③実績とは、誇るべき仕事をしていれば、見込み客が現れれば実績の写真集やパンフレットを見せて修復の特徴を説明する。これが無いという業者は技術や技能に自信が無いと判断して良い。中には無口で自慢が苦手という方もいるが、当たる確率は低い。
選択したい施工会社の特徴
最初のセレクションで対象外を削除できたので、残った候補の中から選べば、外れは引かないことになる。ここでは、積極的に選択したくなる施工会社の特徴を説明するのでセレクションの参考にして欲しい。
最有力な積極的要因は提案力だ。張替えの依頼者は、工事に関して素人でフローリン材の種類や張替え方法に関する知見は非常に乏しいものだ。
この状況に対して、コスト・工期・品質に関して、オプションを提案してくれる施工会社を選択したい。
提案力の一例として、依頼人の修復要望に対するコストダウンや価格は同等でも出来上がりがアップグレードする方法の提案だ。種々の引き出しが無いと提案はできないので、これが無い様であれば、他の業者に提案を求めてみることが必要だ。
一般的な選択したい施工会社の特徴を説明した。だが、今回はフローリングの張替えかつ火災保険の適用を目指した場合の選択ポイントも付け加えよう。火災保険申請に関して多くの実績がある工事会社ということだ。
火災保険会社がチェックしている点を理解すれば、申請の要領も把握できるので、以下に審査側の関心を抱く事項を示す。これらを把握して施工会社との打ち合わせに臨んで欲しい。相手がこれらを理解していれば保険申請に慣れた会社だ。
(a)原因 ・・・ 経年劣化、それとも災害や事故?
(b)人為的要因 ・・・ 故意や過失の有無?
(c)見積 ・・・ 損傷部の復旧費用として合理的な範囲内か?
(d)補償外の費用の有無 ・・・ 保険の対象外の費用が見積中に存在するか?
尚、保険金の申請には時効があり、損害を受けた時より3年を過ぎると保険で補償される災害でも受理されなくなるので、被災したら遅滞なく保険金の給付申請に取り掛かろう。この時効のことを理解していない会社が対象外だ。
DIYでフローリングの張替えは可能か?
費用のことを考えるとフローリングの張替えもDIYで実行したくなる。床下の補強等から手掛けるのは素人にはハードルが高いが、部分的な張替えならコツを掴めば多少の紆余曲折を経ても完成に辿り着ける。
部分張替えのステップ
張替え作業は段取りに時間がかかる。職人技は入念な段取りが成功の秘訣で、対象となる部分張替えも段取りを含めて種々のステップで構成されるので、全体を俯瞰しょう。以下に各ステップを示すと共に主要ステップを後述する。
①張替え部分の決定
↓
②フローリング材も用意
↓
➂用意したフローリング材のカット
↓
④張替え部分周辺の養生
↓
⑤張替え部分の切断
↓
⑥下地からフローリング材の除去
↓
⑦下地の整地
↓
⑧新しいフローリング材の設置
↓
⑨既存フローリングとの色調調整
上記①から④が段取りに相当する部分で、このステップで表される作業を丁寧にやれるかで仕上がりが左右される。地味で面白みの少ない作業であるが、正確で手を抜くことなくやりきることをお勧する。
張替え部分の決定
フローリングは、長方形の板材を床に敷き詰めたもので、フローリングの部分張替えは、張替え用材料の単位ごとにおこなうことになる。よって、損傷を受けている部分より広範囲の張替えを行う必要があることを留意して欲しい。
図3に張替え部分の決定に関する考え方を示す。図3の(1)は、腐食や剥がれが発生している場所で、(2)が張替え部分(薄緑部)である。この張替え部分に番号を割り当て(3)、その拡大部が(4)である。これで、張替えに要する材料の所要量が決定する。
張替え用のフローリングの所要量は、歩留まりを考慮して最低必要量より多めに用意することが肝要だ。DIYの場合は、試行錯誤する場合が多々あり、最低購入可能量を考慮すると倍以上必要なこともある。
部分張替え作業実務
部分張替えは、既存のフローリングを剥がし、新規にフローリング材を張合わせる作業だ。既存部分を除去する際に、周辺部や下地に損傷を与えずに、接着剤の付着カス等を取り去るという繊細な作業を丁寧に実行する必要がある。
張替え部分の周辺を養生したら、いよいよ既存のフローリングの除去作業を行うのだが、図4に張替えに伴う実際の作業をイラストで示しているので参考にして欲しい。(1)張替え部分の外縁のフローリング材の短辺を切断し、(2)フローリング材を除去する。
対象部のフローリング材を全て剥がし、下地に付着した接着剤やゴミ等を取り除き、(3)張替えるフローリング材を対象とする場所に嵌め込み固着する。既存の部分と新規に貼り合わせた部分では、色調が異なるので、(4)周辺に合わせて色調を調整する。
火災保険でフローリング費用を賄える場合もある
多くの方は、フローリングの張替えが火災保険で費用を賄えるとは考えてはいないだろう。ある条件を満たせば、軋みや沈みのあるフローリングの張替えの費用を火災保険の保険金から捻出することができる。
火災保険の特徴と適用範囲
火災保険は損害保険のカテゴリーに属し個人向けの保険商品で、家屋や家財に対するリスクファイナンスを提供する。火災保険が対象とするリスクは、火災だけでなくオプションで落雷、大雨、大風等の自然災害や投石等の事故にも対応できる。
火災保険のネーミングから補償の対象が火事による被災のみと考えている方が多いだろうが、再度強調する。火災保険は、大風・大雨や落雷等の自然災害や自動車が塀や家屋に追突する事故やデモ隊の投石による破損等も対象とする。
更に、不測かつ突発的な事故による破損や汚損などを補償するオプションも用意されている。これは、重量物(冷蔵庫)を移動しているときに床上の延長コードに足を取られて重量物を倒してしまいフローリングに亀裂が生じたような事例だ。
尚、不測かつ突発的な事故が補償する範囲として、すり傷などの外観上の損傷または汚損であって、その機能に支障をきたさない損害は補償の対象外としている場合がある。機能を果たせない様な損傷を対象としている。
火災保険は民間企業が運用者(保険者)となっているのでリスクファイナンスを提供する際に、対象とするリスクを限定している。対象とするリスクは、控除方式で定義した方が理解しやすいので、以下に示す。
①経年劣化(自然摩耗)でない
②施工不良でない
➂故意や過失でない
④地震・津波・噴火・原子力事故でない
経年劣化(自然摩耗)でないとは、通常の使用状態での劣化は保険の対象外であり、通常とは異なる外力で損傷をうけたときに保険の対象となる。
また、施工不良であれば、工事を請負った会社に責任があり、その会社が原状回復の責任を負うからだ。
故意や過失でないとは、フローリングの損傷で言えば、破壊する意思を持って重量物を床に投げつける様な行為を意味する。また、子供が室内で火遊びをしているのを放置して、床が焦げるような場合で、親の不注意(過失)での行為を言う。
地震・津波・噴火・原子力事故ではいとは、これらの災害や事故が生じると被災範囲が広大かつ個々の損害額が大きいために民間の保険会社のリスクファイナンス能力を大きく超える災害であるためだ。
フローリングの張替えに火災保険が適用される条件とは?
前述のように全ての張替えに火災保険が適用される訳ではないことは理解されただろう。だが、床が、変色・軋み・沈み込むような状態で張替え時期を向かえたフローリングでも火災保険が適用される場合がある。
張替えが必要なフローリングが、ある出来事で穴が形成された場合を想定しよう。例えば、変色や表面層が剥がれたフローリングで沈み込みが酷く、リフォームを計画しているときに、自動車が家屋に突入して、その衝撃で家具が倒れ床に穴をあけた場合だ。
火災保険には、加入しており偶然かつ突発的な事故に対応したオプションも選択していると仮定しよう。上記の事例での出来事で損傷したフローリングの張替え費用は火災保険の給付があるので費用を賄えることが可能だ。
この事例では、火災保険の不適合要件である上記の①―④に相当していない。即ち、①穴の形成は経年劣化でなく、偶然かつ突発的な事故で生じたものだ。②穴の形成は施工不良でなく、事故である。
また、③自動車の突入は、他者のもたらした事故で保険契約者の故意や過失でなく、④地震・津波・噴火・原子力事故でない交通事故に起因した損傷、という火災保険の適用要件を備えている。
まとめ
損傷や汚れのないフローリングでの生活は、毎日清々しい気持ちで過ごせる。その為には損傷の修復等のメンテナンスは不可欠だが、時間の経過と共にダメージを受けることは不可避で、いずれにしても張替えの時期はやってくる。
フローリングの張替えは仕様・コスト・工期に関して種々のオプションがあり、その時期に適した選択が可能だ。また、張替えは、大きく室内の雰囲気を転換出来るので本稿を参照して、快適な部屋作りに励んで欲しい。
株式会社アーキバンク代表取締役/一級建築士
一級建築士としての経験を活かした収益物件開発、不動産投資家向けのコンサルティング事業、及びWEBサイトを複数運営。建築・不動産業界に新たな価値を提供する活動を行う。